忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「営業利益は黒字なのに、なぜか銀行の反応が鈍い…」
その理由は、銀行が金利上昇時代において「経常利益」を重視しているからです。
経常利益とは? 本業の儲けである「営業利益」に、
借入金の利息など財務活動の結果(営業外損益)を加えた「会社の平時の総合点」です。
なぜ今、重要なのか? 銀行は「利息をきちんと払った後でも利益が残る会社か」を経常利益で判断します。
低金利時代は問題になりませんでしたが、金利が1%上がれば、借入が3億円の会社は年間300万円も利益が吹き飛びます。
この金利への耐性が問われているのです。
経営者がすべきこと
本業を強くする:全ての源泉である「営業利益」を伸ばす。
財務を管理する:「金利が1%上がったら利息はいくら増えるか」を把握し、借入を見直すなどの対策を打つ。
正しく伝える:為替差益など一時的な利益を除いた「実力値」で会社の状況を把握し、銀行に説明することで信頼を高める。
これからの時代、本業の強さに加え、「お金のやりくり」の巧拙が会社の生死を分けます。
まずは自社の借入金から、金利上昇の影響額を計算してみましょう。
本文
「営業利益は、今期もなんとか黒字を確保した」
「EBITDA(体力)も、プラスを維持している」
なのに、銀行の担当者と話をすると、どうも反応が鈍い。
「最近、金利が上がってきているので、御社の『ココ』の数字が気になりまして…」と、決算書の別の場所を指さされた。
そんな経験はありませんか?
こんにちは。財務を勉強したい若手経営者のための超入門シリーズ、第6回です。
第1回:総論
第2回:限界利益(受ける・やめるの判断軸)
第3回:粗利(儲かる仕組みの設計図)
第4回:営業利益(経営力の通信簿 )
第5回:中小企業の体力を測る「EBITDA」(会社の体力測定)
第6回:経常利益 会社全体の「総合評価」
今回は、これまでの「本業の儲け」の話から一歩進んで、「会社全体の平時の総合点」を示す
「経常利益(けいじょうりえき)」について解説します。
特に、これから金利が本格的に上昇していく時代において、
この「経常利益」を見ていない経営者は、静かに会社の体力を奪われることになります。
1. 「経常利益」とは? 「平時の総合点」
まず、EBITDAの回で、「利益と現金は違う」という話をしました。
今回は、「利益」の中でも種類がある、という話です。
「営業利益」は、あくまで「本業(パン屋ならパンを売る)」だけで稼いだ利益でした。
では、「経常利益」とは何か?
それは、「本業の儲け」に「本業以外での儲けや損失」を足し引きした数字です。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用
この「営業外」というのがクセモノです。
これは、「会社の財務活動や投資活動の結果」だと考えてください。
営業外収益(プラス要因)
受取利息:銀行にお金を預けて得た利息
受取配当金:他社の株を持っていて得た配当
為替差益:円安になって、ドル建ての売上が円換算で増えた
不動産からの受取賃貸料・地代
営業外費用(マイナス要因)
支払利息:銀行から借りたお金の「利息」
為替差損:円高になって、ドル建ての仕入れが円換算で増えた
なぜ、これが「経常(=常に起こる)」なのでしょうか?
それは、借金があれば「支払利息」は毎年必ず発生するからです。
輸出入があれば「為替」の影響は常に受け続けるからです。
つまり、経常利益とは、
「本業の成績(営業利益)」+「お金のやりくり(財務活動)の成績」
この2つを合計した、「会社が平常時に出すことのできる総合点」となります。
2. なぜ今、「経常利益」が最重要なのか?
「営業利益さえ出ていれば、本業は順調なんだから良いじゃないか」
そう思っていた時代は、終わりつつあります。
なぜなら、「金利がほぼゼロ」という異常な時代が終わったからです。
使いどころ1:銀行(金融機関)との対話
銀行が融資の審査をするとき、どこを見ていると思いますか?
もちろん「営業利益(本業の強さ)」や「EBITDA(返済の体力)」も見ます。
しかし、彼らが最も重視する指標の一つが「経常利益」です。
なぜなら、銀行への「利息」は、「営業外費用」として支払われるからです。
社長の視点:「営業利益が1,000万円出た!すごいぞ!」
銀行の視点:「営業利益は1,000万円か。でも、ウチへの支払利息が年間800万円あるな。
差し引くと経常利益は200万円。これでは、ちょっとしたアクシデントで赤字(経常赤字)になるな」
銀行は、「利息を払った後でも、ちゃんと利益が残る会社か?」を見ています。
経常利益は、銀行にとって「この会社は利息を払う体力があるか」
を見るための、最も直接的な指標なのです。
使いどころ2:金利上昇局面での「耐性チェック」
これまでは「超低金利」だったので、借入が多くても支払利息はたいした額ではありませんでした。
しかし、もし金利が 1% 上がったら?
ここで、社長が絶対に把握すべき「金利感応度」の目安式があります。
金利上昇による影響額(年間) ≒ 有利子負債 × 1%
借入金が 3億円 ある会社
→ 年間の支払利息が 300万円 増えます。(=月25万円)
借入金が 10億円 ある会社
→ 年間の支払利息が 1,000万円 増えます。(=月84万円)
営業利益(本業の儲け)がまったく同じでも、支払利息が増えた分だけ、経常利益はそのまま減ってしまうのです。
これが「金利時代に効く損益管理」の意味です。
これができていないと、気づかぬうちに利益が流出し、ジワジワと経営が苦しくなります。
3. 経常利益の「ワナ」:「実力」と「まぐれ」の見誤り
この「経常利益」は、総合点であるがゆえに、見方を間違えると経営判断を誤ります。
失敗あるある:「偶発的な営業外益」を「実力」と誤解する
今期の決算書が下記だったとします。
営業利益:100万円(本業はギリギリ)
営業外収益:+2,000万円(たまたま円安が進み、莫大な為替差益が出た)
経常利益:2,100万円
これを見て、「今期は絶好調だった!来期もこの調子だ!ボーナスを増やそう!」
と判断したら、どうなるでしょう?
来期、為替が元に戻ったり、円高に振れたりしたら、一気に「経常赤字」に転落します。
これは「実力」ではなく、たまたまの「ラッキー(一時的要因)」です。
「受取配当金」で経常利益が良く見える場合も同じです。
解決策:「調整後経常利益」で見るクセをつける
経営者は、経常利益を見るとき、必ずその中身を分解し、
「実力」と「一時的な要因(まぐれ)」を分けて考える必要があります。
そのための便利な道具が「調整後経常利益」です。
調整後経常利益(平時の実力) ≒ 経常利益 − 一時的な営業外要因
決算書や試算表の「営業外収益」の中身を見たら、
「来期も続くものか?」を自問自答してみて下さい。
4. 社長がすべき「経常利益の磨き方」3ステップ
では、私たちは「経常利益」とどう向き合い、どう改善(磨いて)いけばよいのでしょうか。
やるべきことは3つのステップです。
ステップ1:【土台】営業利益を強くする
当たり前ですが、すべての源泉は「本業の儲け」です。
財務活動(お金のやりくり)がいくら上手くても、本業が赤字では会社は続きません。
まずは営業利益を黒字化し、伸ばし続けることが最優先です。
ステップ2:【揺れ止め】営業外コストを設計する
経常利益が外部環境でブレすぎないよう、「揺れ止め」の対策をします。
金利対策:
まずは「金利が1%上がったら、支払利息がいくら増えるか?(=金利感応度)」を把握します。
その上で、金利上昇に耐えられないなら、借入の「固定金利と変動金利の比率」を見直す、借換えを検討する、などの手を打ちます。
為替対策:
輸出入がある場合、「1円円高(円安)になったら、利益はいくら変動するか?」を把握します。
為替予約、価格転嫁ルールなど、「為替ヘッジの方針」を社内で文書化しておきましょう。
ステップ3:【見せ方】「調整後」の実力値で語る
これが銀行交渉や社内会議で絶大な効果を発揮します。
「経常利益は2,100万円です」と言うだけでなく、中身を説明するのです。
(例:銀行面談での説明)
「今期の経常利益は2,100万円と好調に見えますが、
このうち一時的な為替差益が2,000万円含まれています。
したがって、平時の実力(調整後経常利益)は100万円だと認識しており、
来期は本業の営業利益を改善することに集中します。」
このように「実力値」で語ることで、経営者が数字を正しく把握していると伝わり、銀行からの信頼が格段に上がります。
黙って決算書を提出しても、銀行員は「実力は100万円」とすぐに把握します。
「語るか語らないか」どちらが賢明な判断かは明白ではないでしょうか。
まとめ:利益は「通信簿」、EBITDAは「体力」、経常利益は「平時の総合点」
営業利益 = 本業の通信簿
EBITDA = 本当の体力(キャッシュを生む力)
経常利益 = 平時の総合点(本業+お金のやりくり)
これまでは、本業の「営業利益」さえ見ていれば、なんとかなる時代でした。
しかし、金利が動き出したこれからは、「お金のやりくり」の巧拙が、そのまま会社の利益を左右します。
銀行は、あなたの「営業利益」と「支払利息」を天秤にかけ、あなたの「経常利益」に注目しています。
まずは、今すぐ「借入明細」を開き、もし金利が1%上がったら年間の支払利息がいくら増えるか、計算用紙に書き出してみてください。
そこから、金利時代を生き抜く「耐性づくり」が始まります。