忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「黒字なのにお金がない」という経営者の悩みは、利益と現金の違いを理解していないことが原因です。
その解決策がEBITDA(営業利益+減価償却費)で、これは実際に生み出せるキャッシュの力を示す「体力ゲージ」です。
EBITDAは、本業の真の稼ぐ力を比較したり、銀行融資の可能性を判断したり、設備投資の判断基準として活用できます。
ただし、運転資金の膨張、設備投資、借金返済、税金など、EBITDAが高くても現金が減るワナがあるため、
EBITDAの把握とキャッシュフロー表の管理を組み合わせることが重要です。
第1回:総論
第2回:限界利益(受ける・やめるの判断軸)
第3回:粗利(儲かる仕組みの設計図)
第4回:営業利益(経営力の通信簿 )
第5回:中小企業の体力を測る「EBITDA」(会社の体力測定)
本文
財務が苦手な経営者や、これから勉強するという若手経営者に贈る
「やさしい財務入門 第5回」スタートです。
「決算は黒字。でも通帳はいつもギリギリ」
そんなモヤモヤを感じたことはありませんか?
その原因はシンプルで、
利益と現金(キャッシュ)は別物
だからです。
このズレを埋めて、「うちの会社は本当はどれくらいお金を生む力があるのか?」
を教えてくれるのが、今回の主役 EBITDA(イービットダー) です。
横文字アレルギー、出さないでくださいね。
今から、「EBITDA(イービットダー)」について、世界一やさしく解説します。
これがわかれば、「なぜ黒字なのにお金がない?」という最大の疑問が解け、
銀行との交渉や、次の設備投資の判断に自信が持てるようになります。
まず、大前提からいきます。
なぜ「利益」と「現金」はズレるのか?
まずは、「利益」と「現金」はまったくの別物だということを知ってください。
なぜなら、会計(決算書)には、「実際のお金の動きとは関係なく、数字上だけで処理する費用」が存在するからです。
その代表格であり、経営者が絶対に理解すべき項目が「減価償却費(げんかしょうきゃくひ)」です。
たとえば、500万円のトラックを現金で買っても、会計上は「5年に分けて毎年100万円ずつ費用」にします。
「5年で償却」とは、このことです。
そして、2年目・3年目は、現金は出ていないのに利益だけが100万円減る。
これが「利益とお金のズレ」の代表的な正体です。
1|EBITDAって、ざっくり何者なの?
難しく考えなくて大丈夫です。式はこれだけ。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
営業利益:本業のもうけ
減価償却費:実際にはお金が出ていない「分割経費」
※(厳密には支払利息や税金なども考慮しますが、まずはこれで十分です)
決算書に出ている「営業利益」に
「見せかけの費用」である減価償却費を足し戻して
「本業でどれだけキャッシュを生んでいるか?」
を見よう、というのが EBITDA です。
利益は「採点」 EBITDAは「体力」
と言われることもあります。
2 EBITDAをどう使う?(社長のための3つの使い方)
EBITDAは、ただ計算するだけでなく、「使う」ことで真価を発揮します。
使い方1:「本当の儲け」を比較する
同じ「営業利益500万円」の会社が2社あっても、中身がまったく違うことがあります。
A社(古い機械を使い続けている)
営業利益:500万円
減価償却費:200万円(もうあまり償却するものがない)
EBITDA(稼ぐ力):700万円
B社(積極的な投資・新しい機械を導入)
営業利益:500万円
減価償却費:1,500万円(最新設備をどんどん導入)
EBITDA(稼ぐ力):2,000万円
決算書上の営業利益は同じ500万円でも、B社の方がA社の約3倍もキャッシュを生み出す力が強いことがわかります。
使い方2:「借金」をどれだけ返せるか測る(銀行との交渉)
銀行がお金を貸すとき、何を見ていると思いますか?
もちろん「営業利益」も見ますが、それ以上に「EBITDA」を最重要視しています。
なぜなら、銀行への返済は「利益」ではなく「現金(キャッシュ)」で行われるからです。
銀行は、「この会社は、年間にどれだけ「返済の原資」となるキャッシュを生み出せるのか?」
(=EBITDAはいくらか?)を知りたいのです。
ここで使える簡単な指標があります。
有利子負債倍率 = 借入金の合計 ÷ EBITDA
これは、「今の借金を、何年分の「稼ぐ力」で返せるか?」を示す数字です。
一般に10倍以内、つまりは「10年間で返済できる」が目安などと言われます。
EBITDAを把握していれば、
「我が社のEBITDAは年間2,000万円あります。だから、あと5,000万円の融資を受けても、十分に返済可能です」
と、根拠のある交渉ができます。
使い方3:「次の設備投資」の判断に使う
「新しい機械を1,000万円で買いたいが、本当に大丈夫か?」 こんなときもEBITDAが役立ちます。
EBITDAは、あなたの会社が「どれくらいの投資規模に耐えられるか」を示す体力ゲージなのです。
その投資によってEBITDAがいくら増えるのかを計算し、
「何ヶ月で回収できるか?」という社内ルール(例:36ヶ月以内に回収)を決める判断基準になります。
3 【最重要】EBITDAが良くても「お金が残らない」4つのワナ
「よし、EBITDAはプラスだ!これで安心だ!」 と思った社長、まだ半分です。
EBITDAは「本業でキャッシュを稼ぐ力(体力)」を示しますが、
それ以外にもお金がなくなる「黒字倒産」のワナがあります。
EBITDAが高い = 必ずしもお金(現金)が増える、ではないのです。
1.ワナ1:運転資金の膨張(売掛金・在庫)
「売ったけど、未入金(売掛金)」が増える。(業績好調時に発生)
「仕入れたけど、未販売(在庫)」が増える。(業績好調・判断ミス時に発生)
これらはEBITDAの計算に含まれませんが、「現金が社外に出ていく」か、
会社の中で「寝ている」状態です。「在庫」は「罪庫」にもなるのです。
2.ワナ2:設備投資
EBITDAは投資「前」の体力です。トラックや機械を買えば、一括で現金が出ていきます。
3.ワナ3:借入元金の返済
これが最大のワナです。借金の「元本」の返済は、会計上「費用」になりません(P/Lに出てこない)。
EBITDAで稼いだキャッシュの中から、税引き後利益で返済する必要があります。
4.ワナ4:税金・賞与・生命保険資産計上分など
利益が出れば当然「法人税」を払います。賞与もまとまった現金支出です。これらもEBITDAから支払われます。
4 EBITDAを「生きた数字」にする実務5つ
1.まずは自社のEBITDAを出す
決算書の「営業利益」に「減価償却費」を足すだけ。
できれば直近12か月の推移も見てみましょう。
2.運転資金の動きをチェック
売掛・在庫・買掛の増減を月次で眺めるだけでも、
「どこにお金が詰まっているか」が見えてきます。
3.投資は「何か月で回収?」で判断
その投資で増える見込みの EBITDA で、
何か月で元が取れるかをざっくり計算するクセをつける。
4.返済計画は“体力”に合わせる
原則として、年間返済額 ≦ EBITDAをひとつの目安に。
これを超えるようなら返済期間や借入の組み方を要相談です。
5.キャッシュフロー表を週1で更新
「今から3か月先までの入出金予定」を表にして、週に1回、15分だけでも見直す。
会議では「前週からの差分」だけ確認するのが続けるコツです。
とはいえ、「週1点検」は、かなりハードルが高いと思われますので
「月1」もしくは前月や前年との「現金の増減」の確認からはじめてみましょう。
まとめ:EBITDA(体力)+キャッシュフロー表の二刀流へ
利益は採点
EBITDAは体力
現金は生存
黒字なのにお金が残らない本当の理由は、
「体力(EBITDA)」と「現金の出入り(運転資金・投資・返済・税金)」を
バラバラに見ているからです。
まずは今日、直近の決算書を開いて
営業利益+減価償却費=EBITDA を計算する
来週からの入出金を、簡単でもいいので書き出してみる
この小さな二歩が、「黒字なのにいつもヒヤヒヤ」から
「数字を見て、根拠をもって判断ができる社長」への第一歩になります。