昨日、世界陸上東京大会の幕が下りた。
毎日、熱戦が繰り広げられ、熱心に見ていた人も多いと思います。
私もその一人なのですが、その中でも一番印象に残り
ずっと「私ならどう声をかけるか」と考えさせられる場面がありました。
あの、村武ラシッド選手の決勝の後のインタビューで発せられた
「何が足りなかったのだろう」です。
私は普段、中小企業の経営者向けに、会社の数字を分かりやすく可視化するツールを使い、
経営の『伴走者』となる仕事をしています。
その中で痛感するのが、『優れた仕組み(システム)だけでは人は動かず、最後の決め手は人の感情だ』
ということです。
経営者の「変わろう」とする強い気持ちや、「何かを変えなければ」という強い決意が
なければ、どんなに優れて簡単なツールでも、どんなに優れた技術論でも「宝の持ち腐れ」となります。
そこで本稿では、自戒の念をたくさん含めた上で
社長や上司はもちろん、学校やスポーツの教育者や指導者、子育て中の親御さんにも
役に立てるような「言葉がけ」について書いていきます。
本稿を読んでいただき、少しでもお役に立てればと思います。
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約文」
世界陸上でメダルをわずか0.06秒差で逃した村竹ラシッド選手の「何が足りなかったんだろう」という言葉。
この瞬間、コーチや指導者は何を伝えるべきか。
人はシステムだけでは動かない。最後は感情で動く。だからこそ、言葉がけには3つのフェーズが必要だ。
フェーズ1:直後は感情を受け止める
「よくやった。悔しいな。今はそれでいい」
フェーズ2:努力を承認し、視点を変える
「この悔しさを、どう伸びしろに変えるか。一緒に考えよう」
フェーズ3:冷静に振り返り、未来へ
「この経験が、次の成功に必要な財産だ」
社長、上司、教育者、親。誰かの「そばにいる立場」のあなたの一言は、人生を左右する力を持っている。
悔しさを成長の燃料に変えられるのは、信頼関係のある「あなたの言葉」だけなのだ。
本文
はじめに
男子110mハードル・世界陸上決勝。
わずか0.06秒差でメダルを逃した村武ラシッド選手が、号泣しながら語った言葉に、心を打たれた人は多かったと思います。
「何が足りなかったんだろう」
この一言に込められた悔しさ、孤独、そして責任感。
この瞬間、彼のそばにいて、一緒にここまで歩んできた人々が何を伝えるか。
それは、競技結果以上に大切な「人生の節目」であり、コーチングの真価が問われる場面でもあります。
今回は、コーチの立場からの声かけを、3つのフェーズに分けて考えてみます。
これはアスリートに限らず、企業のリーダーや教育者にも響く、「言葉と問いの使い方」のヒントになるはずです。
🔹フェーズ1:レース直後 ― 感情を受け止める
この瞬間に必要なのは、「分析」や「反省」ではありません。
「ただそこにいて、感情に寄り添い、一人じゃないと伝えること」
これが必要になると思います。
かける言葉の例
「よくやった。悔しいな。今は、それでいい」
「俺も悔しい。でも、最高の走りだった。胸を張ろう」
「今は何も考えなくていい。まずは、しっかりクールダウンしよう」
ポイントは、「前を向け」ではなく「今のままでいいよ」と伝えること。
涙を流せるほどの本気に、評価も分析もいらない。ただ、「隣にいること」がすべて
だと思います。相手の感情をそのまま素直に全て受け止めましょう。
ここで焦って指導やアドバイスに入ると、心は閉じます。
🔹フェーズ2:感情が落ち着いたタイミング ― 努力を承認し、視点を変える
一晩明け、少し冷静さが戻ってきた頃、
このタイミングでは、これまでの努力やプロセスをしっかりと認めた上で、
「一緒に振り返ろう」と未来への入り口を開きます。
かける言葉の例
「この一年、お前がどれだけやってきたか、私が一番よく見てる。世界5位だぞ。誇りに思う」
「『何が足りなかったんだろう』その答え、これから一緒に見つけていこう」
「あの0.06秒をどうやって削るか。面白い挑戦がまた始まったな」
悔しさを「課題」ではなく「伸びしろ」に変換し、
「敗北」を「進化の起点」にする、すなわち、「ここからまたスタート」しようと
顔を上げ、前を向かせるような言葉がけが大切になります。
🔹フェーズ3:数日後の自己分析 ― 冷静に振り返り、未来へ
心身が整った後、ようやく技術的な振り返りと未来の設計に入ります。
このフェーズでは、一方的な分析やデータを伝えるのではなく、
対話を通じ、冷静な自己分析から始めることが大切です。
その上で、自己分析から出てきた課題に対してデータを提示し
「一緒に考えていく」姿勢が必要です。
「アドバイス」ではなく「自分の言葉」で話してもらうことが重要です。
かける言葉の例
「さて、レースを振り返ろう。あなた自身はどう感じてた?何でも聞かせて」
「データを見ると、ここは完璧。でも、この部分が足りていないようだ。どう修正していくか、考えよう。」
「よし!この悔しさが、最後のピースだったかもしれん。つぎこそ成功するために必要な財産を、今日手に入れたんだ。」
技術的な話も、本人の感じたことを起点にする。
そして最後には、「この経験が財産になる」という意味づけを行い、再び目を前に向けさせます。
主観→客観→対策の順で組み立て、「誰が・いつ・何を・どう測るか」まで落とし込む。
ここまで来て初めて、必要と思われる行動や技術、そして数値やデータが活きます。
■ おわりに
村武選手が流した悔し涙。しかし、信頼する周りの人々の言葉によって、
その涙はきっと次の舞台へ向かうための『最高の燃料』に変わるはずです。
私たちもまた、誰かの『伴走者』です。
社長や上司、先生や親の言葉は、単なる「慰め」や「励まし」ではありません。
それは、感情に寄り添い、努力を承認し、未来への光をともす「伴走者としての言葉」です。
あなたが誰かの「そばにいる立場」だとしたら
その一言は、時に人生を左右する力を持っています。
悔しさを燃料に変えさせ、点火させることができるのは、
信頼関係ができている、「あなた」であり「あなたの言葉」なのです。
今日、あなたが向き合う大切な人に、どんな言葉をかけますか?
私も、まだまだ「言葉の力」磨いていきます。