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どんぶり勘定が社長の視線を奪う──ドラッカーに学ぶ『大聖堂』を見上げるための資金管理術
2025.12.03
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
資金繰りに悩む中小企業の社長は、「今月末、本当にお金が足りるのか」という不安に縛られ、
視線が「未来」ではなく「足元」に釘付けになりがちです。
ドラッカーの有名な「3人のレンガ積み職人」の寓話が示すように、
同じ仕事でも「労働」「手段」「使命」としてどう意味づけるかで、やる気も人生の充実度も大きく変わります。
本来、経営者は「大聖堂を建てる」ような理想や使命を持っていたはずなのに、
日々の資金繰りや雑務に追われるうちに、「ただレンガを積むだけ」の状態になってしまうことがあります。
その不安の正体の一つが、「どんぶり勘定」によるお金の見えなさです。
不安を減らす最初の一歩は、難しい会計ソフトではなく「紙とペン」での見える化です。
通帳残高、今後の入金予定、今月の支払予定の3つを書き出し、
差額を計算するだけで、漠然とした恐怖は「対処可能な課題」に変わります。
事実に基づいて判断できるようになれば、心に余裕が生まれ、
再び「3人目の職人」のように、経営を自分の使命として捉え直せるようになります。
日々の資金チェックや資料作成などの「レンガ積み」も、
「社員が安心して働ける環境を守る」「お客様の未来を拓く」といった「大聖堂」につながる行為として再定義できたとき、
経営は苦役から誇りある仕事へと変わります。
資金繰りの不安を一人で抱え込まず、まずは紙に書き出すことから始め、
足元を固めながら、もう一度自分だけの「大聖堂」を見上げていきませんか。
本文
「今月末、本当にお金が足りるだろうか…」
「どこまで支払いを待ってもらえば、なんとかなるか…」
日々奮闘する中小企業の社長様とお話ししていると、こうした切実な声をお聞きすることが少なくありません。
どれだけ売上があっても消えない、漠然とした不安。
誰にも相談できず、一人で通帳を見つめる夜。
「数字が見えない不安」は、社長を孤独にします。
そして何より恐ろしいのは、その不安が社長の視線を「足元」に釘付けにし、
本来見るべき「未来」を見えなくしてしまうことです。
今日は、ある有名な寓話を通して、経営者であるあなたが「本来あるべき姿」を取り戻すためのヒントをお話しします。
■ ドラッカーが教える「3人のレンガ積み職人」の話
ピーター・ドラッカーの著書でも引用される有名な話をご存知でしょうか?
ある旅人が、建築現場で働く3人の職人に「ここで何をしているのですか?」と問いかける話です。
1人目の職人は、不機嫌そうに答えました
「見ればわかるだろ。レンガを積んでいるんだよ。朝から晩まで大変な仕事だ」
彼は、仕事を単なる「労働」、あるいは苦役として捉えています。
2人目の職人は、淡々と答えました
「大きな壁を作っているんだ。家族を養うためだし、腕には自信があるからね」
彼は、仕事を「キャリア」や手段として捉えています。
3人目の職人は、目を輝かせて空を見上げ、こう答えました
「私は、歴史に残る偉大な大聖堂を造っているんだ! ここは多くの人が祈り、心の安らぎを得る場所になるんだよ」
彼は、自分の仕事を「使命」として捉え、社会的な意義を感じています。
3人とも、やっている作業は同じ「レンガ積み」
しかし、自分の仕事をどう意味づけているかによって、
モチベーションも、仕事の質も、きっと人生の充実度もまったく変わってきます。
ドラッカーがこの話で問いかけたのは、
「あなたにとっての「大聖堂」は何か?」
「うちの会社は、何のために存在しているのか?」
という、仕事の目的と使命です。
■ なぜ、社長が「1人目の職人」になってしまうのか?
私たち経営者は、創業した当初、間違いなく「3人目の職人」だったはずです。
「世の中をこう変えたい」「お客様を笑顔にしたい」
心の中に、自分だけの「大聖堂」の設計図を持っていたはずです。
しかし、日々の経営の中で、いつの間にか「1人目の職人」のように、
「ただ目の前のレンガ(資金繰りや雑務)を積むこと」に追われてしまってはいないでしょうか?
「大聖堂を建てたい」という想いがあっても、
足元の土台がグラグラしていては、安心して空を見上げることはできません。
その「グラグラする土台」の正体こそが、「どんぶり勘定」による「お金の不安」なのです。
■ 不安を消す最初の一歩は「見える化」
「会計ソフトもExcelも苦手だ」
そう思う社長こそ、まずは「紙とペン」を用意してください。
ドラッカーが言うように「個々の作業を全体の目的へ結びつける」ためには、
まず作業の現場(資金状況)を直視し、コントロール下置く必要があります。
やるべきことは、以下の3ステップだけです。
通帳の残高(いまある現金)を書く
これから入ってくる売上(入金予定)を書く
今月支払うもの(家賃・仕入・給与など)を書く
これらを書き出し、差額を計算してみてください。
「数字が見えない」状態とは、暗闇の中を歩くようなものです。
お化けが出るかどうかわからないから怖いのです。
しかし、紙に書き出して「見える化」すれば、それは単なる「課題」に変わります。
「あ、今月は少し足りないな。じゃあ、あの支払いを相談しよう」
「意外と余裕があるな。じゃあ、以前から考えていたあの設備投資を検討しよう」
感情ではなく「事実」で判断できるようになれば、社長の心に「余裕」が生まれます。
その余裕こそが、あなたを再び「3人目の職人」へと戻してくれるのです。
■ 「レンガ積み」を「大聖堂建設」へ変えるのは、あなた自身
仕事の意味は、誰かが決めてくれるものではありません。
日々の資金管理や地味な事務作業。これらは一見、辛い「レンガ積み」に見えるかもしれません。
しかし、これらが「会社という大聖堂」を支えるための強固な土台作りだと再定義できたとき、
そこには責任感と誇りが生まれます。
「私の大聖堂は何か?」
資金繰りが見えるようになり、不安が解消されたとき、ぜひもう一度この問いを自問してみてください。
「毎日の資金チェック(レンガ)」は、「社員が安心して働ける環境を守ること(大聖堂)」
「資料作成(レンガ)」は、「お客様の未来を拓く手伝いをすること(大聖堂)」
そう思えた瞬間、あなたの経営は「苦役」から再び「使命」へと変化します。
資金繰りに悩むのは、あなただけではありません。
一人で抱え込まず、まずは紙に書き出すことから始めてみませんか?
足元の不安を消して、一緒にあなただけの「大聖堂」を見上げましょう。
必要であれば、いつでも一緒に「レンガ積み」しますよ。
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「税金を払いたくない」が会社を殺す? 銀行員が見ている「当期純利益」の本当の意味
2025.11.28
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
多くの経営者は「税金を払うくらいなら経費で使う」と考えがちですが、財務に強い経営者は違います。
当期純利益は単なる「今年の成果」ではなく、貸借対照表の自己資本となり、会社を守る「筋肉」になるからです。
過度な節税は自己資本を削り、銀行からの信用も失います。
銀行は「当期純利益+減価償却費」で返済能力を判断するため、
利益ゼロの会社は「借金を返せない会社」と見なされます。
ただし、当期純利益には2つの罠があります。
①土地売却益などの特別利益で実力を見誤る ②利益はあるのに現金がない状態。
経営者は「調整後当期純利益(特別損益を除いた実力値)」で判断すべきです。
税金は「国へのお金」ではなく「財務基盤強化と資金調達力向上のための投資」です。
目先の節税より、10年20年続く「潰れない会社」を目指しましょう。
本文
「一生懸命働いて利益が出たのに、最後にガッポリ税金で持っていかれた」
「税金を払うくらいなら、経費を使ってしまえ!」
決算の時期、そんな「節税」の誘惑に駆られることはありませんか?
お気持ちは痛いほどわかります。
しかし、財務に強い経営者は、あえて「しっかりと税金を払い、当期純利益を残す」
という選択をする場合があります。
なぜなら、この「当期純利益」こそが、銀行に頼らず会社を守る「最強の盾(自己資本)」になるからです。
こんにちは。財務が苦手な社長や次期経営者のための超入門シリーズ、いよいよ損益計算書(P/L)の最終行です。
第1回:総論
第2回:限界利益(受ける・やめるの判断軸)
第3回:粗利(儲かる仕組みの設計図)
第4回:営業利益(経営力の通信簿 )
第5回:中小企業の体力を測る「EBITDA」(会社の体力測定)
第6回:経常利益 会社全体の「総合評価」
第7回:当期純利益 会社の筋肉量(潰れにくい会社の原点)
今回は、会社の寿命を決める最終成果、「当期純利益(とうきじゅんりえき)」について解説します。
「最後の一行」を見る目が変われば、あなたの経営判断は劇的に変わります。
1. 当期純利益とは? ——「ゴール」であり「スタート」
これまで見てきた「経常利益(平時の総合点)」に、最後の仕上げをしたものが当期純利益です。
当期純利益 = 経常利益 ± 特別損益 − 法人税等
ここで登場する要素は2つです。
特別損益:「今年だけ」「異常な」出来事
(例:土地を売った利益、災害による損失、中小企業の役員の退職金など)
法人税等:利益に応じて国に払う「場所代」や「会費」のようなもの
これらをすべて精算し、最後に会社の手元に残った「完全な手取り」
それが当期純利益です。
2. なぜ「税金を払ってでも」利益を残すべきか?
まず、はじめに言っておきます。
私は「節税なんて絶対ダメだ」と言っているわけではありません。
「節税すべき会社」と「節税してる場合ではない会社」があるということです。
そして、中小企業の多くは経験上「後者」であると思います。
また、意識というか考え方として「節税」ではなく「利益の繰り越し」
という観点から「やる・やらない」を決めれなければなりません。
私が考える「節税している場合ではない会社」については
後日、書いてみたいなと思います。
では、本題へ。
多くの経営者が「当期純利益=単なる今年の結果」だと思っています。
しかし、財務の視点は違います。
「当期純利益は、貸借対照表(B/S)へ移動し、会社の「肉体」になる」
どういうことでしょうか?
実は、P/L(成績表)とB/S(財産目録)は、この「当期純利益」という一本のパイプでつながっています。
あなたが稼ぎ出し、税金を払った後の利益は、B/Sの「利益剰余金(内部留保)」という場所に貯金されます。
これは「自己資本」の一部となり、誰にも返す必要のない、会社自身の純粋な体力となります。
黒字(納税) = 会社の筋肉(自己資本)が増える
赤字(過度な節税) = 会社の筋肉を削って痩せ細る
「税金を払いたくないから利益を消す」というのは、
「自ら会社の肉体を削り、防御力を下げている」のと同じことなのです。
また、多くの経営者が憧れる「無借金経営」
節税という行為は、無借金経営と逆行する行為と言えます。
当たり前といえば当たり前ですよね。
キャッシュの源である「利益」を減らす行為が「節税」なのですから。
3. 「見かけの数字」に騙されるな! 2つのワナ
ただし、この当期純利益には、経営判断を誤らせる「ワナ」があります。
数字の大小だけで一喜一憂せず、必ず中身を確認してください。
ワナ①:「特別利益」で実力を見誤る
「今年は当期純利益が5,000万円も出た! 絶好調だ!」
よく見ると、本業(営業利益)は赤字で、昔買った「土地の売却益」が乗っているだけだった。
これは一番危険なパターンです。
土地は一度売ったら終わり。来期は同じ利益は出ません。
経営者は必ず、以下の「調整後」の数字を頭の中で計算してください。
調整後当期純利益(実力値) = 当期純利益 − 一時的な特別利益
銀行との面談でも、「当期純利益は多いですが、土地の売却益を除いた『実力値』はこれくらいと認識しています」
と説明できれば、「数字が見えている社長だ」と信用が急上昇します。
上記の話は、社長が口にしなくても銀行員なら誰でも即座に計算しています。
万が一「当期純利益5000万て、すごいですね~」と言っている銀行員がいたら
担当替えをお願いしましょう。
だからこそ、銀行員が頭の中で計算するより先に社長から発言することが大切です。
ワナ②:「利益はあるのに、お金がない」
当期純利益はあくまで「計算上の利益」です。
本当に大切なのは、ここから「借金の元本返済」を行わなければないということです。
ここでも、銀行員の頭の中をご紹介すると
返済能力 ≒ 当期純利益 + 減価償却費となります。
もし、「節税対策で利益はトントン(0円)です」とした場合、
減価償却費が少なければ、銀行からは「借金を返す原資がない会社」とみなされます。
「税金を払う」とは、国にお金をあげることではなく、
「財務基盤を強くし、銀行からの信用(資金調達力)を買うためのコスト」なのです。
4. 社長のための「当期純利益」活用チェック
では、具体的にこの数字をどう経営に活かすか。
毎回の決算で、この3ステップを確認してください。
「調整後当期純利益(実力値)」はいくらか?
特別損益(まぐれや事故)を除外した、本当の実力を把握する
「自己資本」は積み上がったか?
今回の利益で、自己資本比率は改善したか?(目指せ20〜30%以上)
「返済・配当・投資」のバランスは適正か?
残った利益の範囲内で、借金を返し、株主(自分)へ配当し、未来へ投資できているか?
まとめ:P/Lの終わりは、B/Sの始まり
当期純利益は、ゴールではありません。
来期のB/S(会社の体力)へのスタート地点です。
営業利益で「今、稼ぐ力」を示し
経常利益で「平時の実力」を示し
当期純利益で「未来への蓄積」を残す
「今年はこれだけ利益が出たから、半分は税金を払って、残りを会社の筋肉(自己資本)にしよう」
そう胸を張って言えるようになった時、あなたは「節税」という目先のテクニックを卒業し、
10年、20年と続く「潰れない会社」の設計者になっています。
さあ、改めて直近の決算書を見てみてください。
一番下の行にある「当期純利益」
その数字は、あなたの会社のB/Sに積み重なり、未来のあなたの会社を守る盾になっていますか?
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営業利益は黒字なのに、なぜ銀行の反応は鈍いのか?答えは「経常利益」にあり
2025.11.19
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「営業利益は黒字なのに、なぜか銀行の反応が鈍い…」
その理由は、銀行が金利上昇時代において「経常利益」を重視しているからです。
経常利益とは? 本業の儲けである「営業利益」に、
借入金の利息など財務活動の結果(営業外損益)を加えた「会社の平時の総合点」です。
なぜ今、重要なのか? 銀行は「利息をきちんと払った後でも利益が残る会社か」を経常利益で判断します。
低金利時代は問題になりませんでしたが、金利が1%上がれば、借入が3億円の会社は年間300万円も利益が吹き飛びます。
この金利への耐性が問われているのです。
経営者がすべきこと
本業を強くする:全ての源泉である「営業利益」を伸ばす。
財務を管理する:「金利が1%上がったら利息はいくら増えるか」を把握し、借入を見直すなどの対策を打つ。
正しく伝える:為替差益など一時的な利益を除いた「実力値」で会社の状況を把握し、銀行に説明することで信頼を高める。
これからの時代、本業の強さに加え、「お金のやりくり」の巧拙が会社の生死を分けます。
まずは自社の借入金から、金利上昇の影響額を計算してみましょう。
本文
「営業利益は、今期もなんとか黒字を確保した」
「EBITDA(体力)も、プラスを維持している」
なのに、銀行の担当者と話をすると、どうも反応が鈍い。
「最近、金利が上がってきているので、御社の『ココ』の数字が気になりまして…」と、決算書の別の場所を指さされた。
そんな経験はありませんか?
こんにちは。財務を勉強したい若手経営者のための超入門シリーズ、第6回です。
第1回:総論
第2回:限界利益(受ける・やめるの判断軸)
第3回:粗利(儲かる仕組みの設計図)
第4回:営業利益(経営力の通信簿 )
第5回:中小企業の体力を測る「EBITDA」(会社の体力測定)
第6回:経常利益 会社全体の「総合評価」
今回は、これまでの「本業の儲け」の話から一歩進んで、「会社全体の平時の総合点」を示す
「経常利益(けいじょうりえき)」について解説します。
特に、これから金利が本格的に上昇していく時代において、
この「経常利益」を見ていない経営者は、静かに会社の体力を奪われることになります。
1. 「経常利益」とは? 「平時の総合点」
まず、EBITDAの回で、「利益と現金は違う」という話をしました。
今回は、「利益」の中でも種類がある、という話です。
「営業利益」は、あくまで「本業(パン屋ならパンを売る)」だけで稼いだ利益でした。
では、「経常利益」とは何か?
それは、「本業の儲け」に「本業以外での儲けや損失」を足し引きした数字です。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用
この「営業外」というのがクセモノです。
これは、「会社の財務活動や投資活動の結果」だと考えてください。
営業外収益(プラス要因)
受取利息:銀行にお金を預けて得た利息
受取配当金:他社の株を持っていて得た配当
為替差益:円安になって、ドル建ての売上が円換算で増えた
不動産からの受取賃貸料・地代
営業外費用(マイナス要因)
支払利息:銀行から借りたお金の「利息」
為替差損:円高になって、ドル建ての仕入れが円換算で増えた
なぜ、これが「経常(=常に起こる)」なのでしょうか?
それは、借金があれば「支払利息」は毎年必ず発生するからです。
輸出入があれば「為替」の影響は常に受け続けるからです。
つまり、経常利益とは、
「本業の成績(営業利益)」+「お金のやりくり(財務活動)の成績」
この2つを合計した、「会社が平常時に出すことのできる総合点」となります。
2. なぜ今、「経常利益」が最重要なのか?
「営業利益さえ出ていれば、本業は順調なんだから良いじゃないか」
そう思っていた時代は、終わりつつあります。
なぜなら、「金利がほぼゼロ」という異常な時代が終わったからです。
使いどころ1:銀行(金融機関)との対話
銀行が融資の審査をするとき、どこを見ていると思いますか?
もちろん「営業利益(本業の強さ)」や「EBITDA(返済の体力)」も見ます。
しかし、彼らが最も重視する指標の一つが「経常利益」です。
なぜなら、銀行への「利息」は、「営業外費用」として支払われるからです。
社長の視点:「営業利益が1,000万円出た!すごいぞ!」
銀行の視点:「営業利益は1,000万円か。でも、ウチへの支払利息が年間800万円あるな。
差し引くと経常利益は200万円。これでは、ちょっとしたアクシデントで赤字(経常赤字)になるな」
銀行は、「利息を払った後でも、ちゃんと利益が残る会社か?」を見ています。
経常利益は、銀行にとって「この会社は利息を払う体力があるか」
を見るための、最も直接的な指標なのです。
使いどころ2:金利上昇局面での「耐性チェック」
これまでは「超低金利」だったので、借入が多くても支払利息はたいした額ではありませんでした。
しかし、もし金利が 1% 上がったら?
ここで、社長が絶対に把握すべき「金利感応度」の目安式があります。
金利上昇による影響額(年間) ≒ 有利子負債 × 1%
借入金が 3億円 ある会社
→ 年間の支払利息が 300万円 増えます。(=月25万円)
借入金が 10億円 ある会社
→ 年間の支払利息が 1,000万円 増えます。(=月84万円)
営業利益(本業の儲け)がまったく同じでも、支払利息が増えた分だけ、経常利益はそのまま減ってしまうのです。
これが「金利時代に効く損益管理」の意味です。
これができていないと、気づかぬうちに利益が流出し、ジワジワと経営が苦しくなります。
3. 経常利益の「ワナ」:「実力」と「まぐれ」の見誤り
この「経常利益」は、総合点であるがゆえに、見方を間違えると経営判断を誤ります。
失敗あるある:「偶発的な営業外益」を「実力」と誤解する
今期の決算書が下記だったとします。
営業利益:100万円(本業はギリギリ)
営業外収益:+2,000万円(たまたま円安が進み、莫大な為替差益が出た)
経常利益:2,100万円
これを見て、「今期は絶好調だった!来期もこの調子だ!ボーナスを増やそう!」
と判断したら、どうなるでしょう?
来期、為替が元に戻ったり、円高に振れたりしたら、一気に「経常赤字」に転落します。
これは「実力」ではなく、たまたまの「ラッキー(一時的要因)」です。
「受取配当金」で経常利益が良く見える場合も同じです。
解決策:「調整後経常利益」で見るクセをつける
経営者は、経常利益を見るとき、必ずその中身を分解し、
「実力」と「一時的な要因(まぐれ)」を分けて考える必要があります。
そのための便利な道具が「調整後経常利益」です。
調整後経常利益(平時の実力) ≒ 経常利益 − 一時的な営業外要因
決算書や試算表の「営業外収益」の中身を見たら、
「来期も続くものか?」を自問自答してみて下さい。
4. 社長がすべき「経常利益の磨き方」3ステップ
では、私たちは「経常利益」とどう向き合い、どう改善(磨いて)いけばよいのでしょうか。
やるべきことは3つのステップです。
ステップ1:【土台】営業利益を強くする
当たり前ですが、すべての源泉は「本業の儲け」です。
財務活動(お金のやりくり)がいくら上手くても、本業が赤字では会社は続きません。
まずは営業利益を黒字化し、伸ばし続けることが最優先です。
ステップ2:【揺れ止め】営業外コストを設計する
経常利益が外部環境でブレすぎないよう、「揺れ止め」の対策をします。
金利対策:
まずは「金利が1%上がったら、支払利息がいくら増えるか?(=金利感応度)」を把握します。
その上で、金利上昇に耐えられないなら、借入の「固定金利と変動金利の比率」を見直す、借換えを検討する、などの手を打ちます。
為替対策:
輸出入がある場合、「1円円高(円安)になったら、利益はいくら変動するか?」を把握します。
為替予約、価格転嫁ルールなど、「為替ヘッジの方針」を社内で文書化しておきましょう。
ステップ3:【見せ方】「調整後」の実力値で語る
これが銀行交渉や社内会議で絶大な効果を発揮します。
「経常利益は2,100万円です」と言うだけでなく、中身を説明するのです。
(例:銀行面談での説明)
「今期の経常利益は2,100万円と好調に見えますが、
このうち一時的な為替差益が2,000万円含まれています。
したがって、平時の実力(調整後経常利益)は100万円だと認識しており、
来期は本業の営業利益を改善することに集中します。」
このように「実力値」で語ることで、経営者が数字を正しく把握していると伝わり、銀行からの信頼が格段に上がります。
黙って決算書を提出しても、銀行員は「実力は100万円」とすぐに把握します。
「語るか語らないか」どちらが賢明な判断かは明白ではないでしょうか。
まとめ:利益は「通信簿」、EBITDAは「体力」、経常利益は「平時の総合点」
営業利益 = 本業の通信簿
EBITDA = 本当の体力(キャッシュを生む力)
経常利益 = 平時の総合点(本業+お金のやりくり)
これまでは、本業の「営業利益」さえ見ていれば、なんとかなる時代でした。
しかし、金利が動き出したこれからは、「お金のやりくり」の巧拙が、そのまま会社の利益を左右します。
銀行は、あなたの「営業利益」と「支払利息」を天秤にかけ、あなたの「経常利益」に注目しています。
まずは、今すぐ「借入明細」を開き、もし金利が1%上がったら年間の支払利息がいくら増えるか、計算用紙に書き出してみてください。
そこから、金利時代を生き抜く「耐性づくり」が始まります。
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中小企業の体力を測る「EBITDA」:運転資金・返済・投資まで一気通貫で理解する
2025.11.11
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「黒字なのにお金がない」という経営者の悩みは、利益と現金の違いを理解していないことが原因です。
その解決策がEBITDA(営業利益+減価償却費)で、これは実際に生み出せるキャッシュの力を示す「体力ゲージ」です。
EBITDAは、本業の真の稼ぐ力を比較したり、銀行融資の可能性を判断したり、設備投資の判断基準として活用できます。
ただし、運転資金の膨張、設備投資、借金返済、税金など、EBITDAが高くても現金が減るワナがあるため、
EBITDAの把握とキャッシュフロー表の管理を組み合わせることが重要です。
第1回:総論
第2回:限界利益(受ける・やめるの判断軸)
第3回:粗利(儲かる仕組みの設計図)
第4回:営業利益(経営力の通信簿 )
第5回:中小企業の体力を測る「EBITDA」(会社の体力測定)
本文
財務が苦手な経営者や、これから勉強するという若手経営者に贈る
「やさしい財務入門 第5回」スタートです。
「決算は黒字。でも通帳はいつもギリギリ」
そんなモヤモヤを感じたことはありませんか?
その原因はシンプルで、
利益と現金(キャッシュ)は別物
だからです。
このズレを埋めて、「うちの会社は本当はどれくらいお金を生む力があるのか?」
を教えてくれるのが、今回の主役 EBITDA(イービットダー) です。
横文字アレルギー、出さないでくださいね。
今から、「EBITDA(イービットダー)」について、世界一やさしく解説します。
これがわかれば、「なぜ黒字なのにお金がない?」という最大の疑問が解け、
銀行との交渉や、次の設備投資の判断に自信が持てるようになります。
まず、大前提からいきます。
なぜ「利益」と「現金」はズレるのか?
まずは、「利益」と「現金」はまったくの別物だということを知ってください。
なぜなら、会計(決算書)には、「実際のお金の動きとは関係なく、数字上だけで処理する費用」が存在するからです。
その代表格であり、経営者が絶対に理解すべき項目が「減価償却費(げんかしょうきゃくひ)」です。
たとえば、500万円のトラックを現金で買っても、会計上は「5年に分けて毎年100万円ずつ費用」にします。
「5年で償却」とは、このことです。
そして、2年目・3年目は、現金は出ていないのに利益だけが100万円減る。
これが「利益とお金のズレ」の代表的な正体です。
1|EBITDAって、ざっくり何者なの?
難しく考えなくて大丈夫です。式はこれだけ。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
営業利益:本業のもうけ
減価償却費:実際にはお金が出ていない「分割経費」
※(厳密には支払利息や税金なども考慮しますが、まずはこれで十分です)
決算書に出ている「営業利益」に
「見せかけの費用」である減価償却費を足し戻して
「本業でどれだけキャッシュを生んでいるか?」
を見よう、というのが EBITDA です。
利益は「採点」 EBITDAは「体力」
と言われることもあります。
2 EBITDAをどう使う?(社長のための3つの使い方)
EBITDAは、ただ計算するだけでなく、「使う」ことで真価を発揮します。
使い方1:「本当の儲け」を比較する
同じ「営業利益500万円」の会社が2社あっても、中身がまったく違うことがあります。
A社(古い機械を使い続けている)
営業利益:500万円
減価償却費:200万円(もうあまり償却するものがない)
EBITDA(稼ぐ力):700万円
B社(積極的な投資・新しい機械を導入)
営業利益:500万円
減価償却費:1,500万円(最新設備をどんどん導入)
EBITDA(稼ぐ力):2,000万円
決算書上の営業利益は同じ500万円でも、B社の方がA社の約3倍もキャッシュを生み出す力が強いことがわかります。
使い方2:「借金」をどれだけ返せるか測る(銀行との交渉)
銀行がお金を貸すとき、何を見ていると思いますか?
もちろん「営業利益」も見ますが、それ以上に「EBITDA」を最重要視しています。
なぜなら、銀行への返済は「利益」ではなく「現金(キャッシュ)」で行われるからです。
銀行は、「この会社は、年間にどれだけ「返済の原資」となるキャッシュを生み出せるのか?」
(=EBITDAはいくらか?)を知りたいのです。
ここで使える簡単な指標があります。
有利子負債倍率 = 借入金の合計 ÷ EBITDA
これは、「今の借金を、何年分の「稼ぐ力」で返せるか?」を示す数字です。
一般に10倍以内、つまりは「10年間で返済できる」が目安などと言われます。
EBITDAを把握していれば、
「我が社のEBITDAは年間2,000万円あります。だから、あと5,000万円の融資を受けても、十分に返済可能です」
と、根拠のある交渉ができます。
使い方3:「次の設備投資」の判断に使う
「新しい機械を1,000万円で買いたいが、本当に大丈夫か?」 こんなときもEBITDAが役立ちます。
EBITDAは、あなたの会社が「どれくらいの投資規模に耐えられるか」を示す体力ゲージなのです。
その投資によってEBITDAがいくら増えるのかを計算し、
「何ヶ月で回収できるか?」という社内ルール(例:36ヶ月以内に回収)を決める判断基準になります。
3 【最重要】EBITDAが良くても「お金が残らない」4つのワナ
「よし、EBITDAはプラスだ!これで安心だ!」 と思った社長、まだ半分です。
EBITDAは「本業でキャッシュを稼ぐ力(体力)」を示しますが、
それ以外にもお金がなくなる「黒字倒産」のワナがあります。
EBITDAが高い = 必ずしもお金(現金)が増える、ではないのです。
1.ワナ1:運転資金の膨張(売掛金・在庫)
「売ったけど、未入金(売掛金)」が増える。(業績好調時に発生)
「仕入れたけど、未販売(在庫)」が増える。(業績好調・判断ミス時に発生)
これらはEBITDAの計算に含まれませんが、「現金が社外に出ていく」か、
会社の中で「寝ている」状態です。「在庫」は「罪庫」にもなるのです。
2.ワナ2:設備投資
EBITDAは投資「前」の体力です。トラックや機械を買えば、一括で現金が出ていきます。
3.ワナ3:借入元金の返済
これが最大のワナです。借金の「元本」の返済は、会計上「費用」になりません(P/Lに出てこない)。
EBITDAで稼いだキャッシュの中から、税引き後利益で返済する必要があります。
4.ワナ4:税金・賞与・生命保険資産計上分など
利益が出れば当然「法人税」を払います。賞与もまとまった現金支出です。これらもEBITDAから支払われます。
4 EBITDAを「生きた数字」にする実務5つ
1.まずは自社のEBITDAを出す
決算書の「営業利益」に「減価償却費」を足すだけ。
できれば直近12か月の推移も見てみましょう。
2.運転資金の動きをチェック
売掛・在庫・買掛の増減を月次で眺めるだけでも、
「どこにお金が詰まっているか」が見えてきます。
3.投資は「何か月で回収?」で判断
その投資で増える見込みの EBITDA で、
何か月で元が取れるかをざっくり計算するクセをつける。
4.返済計画は“体力”に合わせる
原則として、年間返済額 ≦ EBITDAをひとつの目安に。
これを超えるようなら返済期間や借入の組み方を要相談です。
5.キャッシュフロー表を週1で更新
「今から3か月先までの入出金予定」を表にして、週に1回、15分だけでも見直す。
会議では「前週からの差分」だけ確認するのが続けるコツです。
とはいえ、「週1点検」は、かなりハードルが高いと思われますので
「月1」もしくは前月や前年との「現金の増減」の確認からはじめてみましょう。
まとめ:EBITDA(体力)+キャッシュフロー表の二刀流へ
利益は採点
EBITDAは体力
現金は生存
黒字なのにお金が残らない本当の理由は、
「体力(EBITDA)」と「現金の出入り(運転資金・投資・返済・税金)」を
バラバラに見ているからです。
まずは今日、直近の決算書を開いて
営業利益+減価償却費=EBITDA を計算する
来週からの入出金を、簡単でもいいので書き出してみる
この小さな二歩が、「黒字なのにいつもヒヤヒヤ」から
「数字を見て、根拠をもって判断ができる社長」への第一歩になります。
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「営業利益は社長の通信簿」~社長が握る利益の源泉~
2025.11.04
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「売上はあるのに、なぜか手元にお金が残らない」 そんな悩みを抱える経営者の方へ。
その原因は、本業の最終的な儲けを示す「営業利益」にあるかもしれません。
営業利益は、商品力(粗利)だけでなく、経費の使い方といった社長の「経営力」を映す「通信簿」です。
この数値が低いと、いくら稼いでも利益が残らない「メタボ体質」の会社になってしまいます。
改善のポイントは3つ。 ① 粗利を増やす ② 販管費(固定費)を減らす ③ お金の使い方の「質」を上げる
まずは自社の営業利益率を計算し、会社の健康状態を把握することから始めましょう。
売上を変えずに、利益を倍増させることも可能です。
本文
「今月も売上は目標達成!」「粗利も出てる!」
なのに、なぜか手元にお金が残らない。
社員の給料を払い、オフィスの家賃を払うと、自分の役員報酬すらキツい。
そんなモヤモヤを感じている経営者・次期経営者の方へ。
それはもしかすると、営業利益に原因があるかもしれません。
このシリーズでは、財務が苦手な方でも本質を理解できるよう、会計の基礎を順を追って解説しています。
第1回:総論
第2回:限界利益(受ける・やめるの判断軸)
第3回:粗利(儲かる仕組みの設計図)
第4回:営業利益(経営力の“通信簿” ←今回)
営業利益とは?「本業でいくら残ったか」を示す数字
営業利益とは、粗利から販管費を引いた残りのこと
営業利益 = 粗利(売上 − 原価) − 販管費(人件費・家賃・広告など)
「粗利」は商品やサービスの強さ
その粗利から、会社を回すための費用を全部払っても黒字が残るか?
これを示すのが営業利益です。
販管費の主な内訳は以下のようなもの:
給料や社会保険料(役員報酬・社員給与)
オフィス賃料、光熱費、通信費
広告宣伝費、交通費、外注費
つまり営業利益は、本業で稼いだ利益の「最終着地」
ここが赤字なら、売上や粗利がいくらあっても、会社としては「本業で赤字」ということです。
営業利益は「社長の通信簿」
営業利益が注目されるのは、その中身が「社長の意思決定の結果」だからです
人を何人雇うか
どこにどんなオフィスを借りるか
どれだけ広告を打つか
社長自身の給料をいくらにするか
これらの支出=販管費は、すべて社長がコントロールしているものです。
だから営業利益は、「商品力」ではなく、社長の「経営力」を表すスコアだと言われます。
粗利が出ていても、営業利益が出ていなければ、「稼ぐ力はあるが使いすぎている」=メタボ体質
数字に現れるのは、社長の「経営設計図の良し悪し」です。
あなたの会社の健康状態は?営業利益「率」でチェック
普段私は「率」より「額」を主に重視しますが
同業他社等と比較し自社のポジションを確認したいのならば「率」が便利です。
営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上 × 100
これは、売上のうち何%が「本業のもうけ」として残っているかを示します。
【業種別の目安】
業種
営業利益率の平均
卸売業
約1〜3%
小売業
約2〜5%
製造業
約3〜7%
建設業
約4〜8%
サービス業など
約5〜10%以上
たとえば、売上1,000万円で営業利益が10万円なら、営業利益率は1%
これは、少しのトラブルで一気に赤字に転落する脆弱な体質です。
まずは営業利益率5%以上、目標としては10%以上を目指したいところです。
営業利益を高めるための「3つの社長の仕事」
営業利益を増やすには、たった3つの方法しかありません。
① 粗利を増やす(=稼ぐ力を強くする)
単価を上げる(値上げ・高付加価値化)
原価を下げる(仕入れ見直し・ロス削減)
儲かる商品を増やす(商品構成の見直し)
まずは「粗利率の改善」が基本。ここが営業利益の「源泉」になります。
② 販管費を軽くする(=固定費の見直し)
粗利があっても、使いすぎれば意味がありません。
ただし、闇雲なコストカットは逆効果なので、まずは販管費を「浪費」と「投資」に分けることが大事です。
浪費の例:
使っていないサブスクリプション
効果測定していない広告
過剰なオフィス・交際費
生命保険料
投資の例:
採用費(優秀な人材)
教育研修費(社員育成)
効果の高い広告費
浪費は削る。投資は生かす。このバランスが営業利益のカギを握ります。
③ 費用の「質」を上げる(=お金の使い方を見直す)
たとえば広告なら、
年間、何人の人が広告を見て、来店や購入しているかを把握していますか?
複数の広告手段を使っている場合、「手段ごと」の来客数などを把握していますか?
人件費なら、「採用にかかる費用」や「戦力化までの費用」を計算していますか?
お金を「使う」のではなく、「活かす」視点を持ちましょう。
今の1万円が、将来1万円以上の粗利を生むか? それが判断基準です。
売上を変えずに営業利益を2倍にしてみよう
■売上:5,000万円
■粗利率:30% → 粗利=1,500万円
■販管費:1,200万円 → 営業利益=300万円(6%)
結構、優秀な会社です。この会社が
① 粗利率を+5pt(30%→35%)
② 販管費を▲100万円
にすると
■粗利:1,750万円(5,000万円×35%=1,750万円 粗利5%増)
■販管費:1,100万円(▲100万円)
1,750万円―1,100万円
→ 営業利益:650万円(13%)
売上は1円も増えていないのに、営業利益は2倍以上になりました!
これが社長の「設計力」です。
「こんなの机上の空論」と失笑された方、「その通り」です。
ただの「計算式」ですから。
ただし、一つだけ真実があります。
「空論」に近づこうとした者だけが「目指す姿」になる権利を得ます。
よく聞く『そうは言っても、うちの会社では無理だ』と感じるかもしれません。
しかし、諦める前に、まずは『粗利率を1%だけ上げる』『販管費を月5万円だけ見直す』
といった小さな一歩から始めてみませんか?
「粗利1%増も無理」ならば、強い会社・潰れにくい会社へのチャレンジは、ここでやめましょう。
「チャレンジする」と考えたみなさん!
「粗利率を2%」「販管費を30万円」これだけでも、社長の「通信簿」は大きく変わります。
チャレンジするのに、お金もかかりませんし、失うこともありません。
まとめ|営業利益は「会社の体力」を示すスコア
粗利は「商品力」
営業利益は「経営力」
売上や粗利だけではわからない、「会社の本当の健康状態」を映すのが営業利益です。
ぜひこの機会に、自社の営業利益と営業利益率をチェックしてみてください。
「利益は出てる?」ではなく、「ちゃんと体力はある?」という視点で、事業の設計を見直していきましょう。
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社長が今すぐ確認すべき”たった1つ”の数字「粗利率が通知表」:中小企業の儲かる仕組みを再設計「粗利編」
2025.10.30
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
売上が伸びているのに利益が残らない原因は、「売上」だけを見て「粗利(あらり)」を管理していないからです。
粗利とは「売上高から商品の仕入れや製造にかかった原価を引いたもの」で、会社の儲けの源泉です。
家賃や人件費といった経費は、すべてこの粗利から支払われます。
そのため、粗利が不足すれば会社は絶対に儲かりません。
まず、自社の「粗利率(粗利 ÷ 売上)」を把握し、業界平均と比べてみましょう。
これが自社の「儲ける力」を知る第一歩です。
その上で、利益を増やすには以下の3つの視点が重要です。
安易な値引きはしない:たった数パーセントの値引きが、利益を大幅に削ってしまいます。
「率」と「回転」で考える:粗利率が低くても、たくさん売れる商品の方が会社に貢献していることがあります。
粗利率自体を改善する:「単価アップ」「原価ダウン」「儲かる商品の販売比率アップ」は、無理に売上を伸ばすより効果的です。
ドンブリ勘定から抜け出すには、経営者が「粗利」に注目し、儲かる仕組みを設計することが大切です。
本文
売上は伸びているのに、口座にお金が残らない。
原因は「売上」だけを見て「粗利(売上総利益)」を管理していないことにあります。
粗利は販管費と利益の「源泉」です。ここが不足すれば、会社は絶対に儲かりません。
今回は、あなたの会社の「儲かる力」の設計図の書き方の話です。
財務諸表(P/L)が読めなくても大丈夫。
この記事を読み終える頃には、「ドンブリ勘定」から抜け出すヒントが必ず見つかります。
1. ズバリ、「粗利」とは「儲けの設計図」
まず、粗利とは何か。
正式名称は「売上総利益」と言います。
「利益を残す」という観点から見れば、最も重要な利益です。
計算式はシンプル
粗利(売上総利益) = 売上高 − 売上原価
「売上原価」とは、「その商品を売るために、「直接かかったコスト」のこと。
業種ごとに少し中身が違います。
小売業・卸売業(モノを仕入れて売る)
「売上原価」= 商品の仕入れ代
製造業(モノを作って売る)
「売上原価」= 材料費 + 工場でかかったお金(製造ラインの人の給料、工場の電気代、機械の減価償却費など)
サービス業(技術・労働力を売る)
「売上原価」= 外注費 や プロジェクトに直接関わった人(エンジニアやデザイナー)の人件費 など
※サービス業は会社によって定義が異なります。
なぜ、この「粗利」が重要なのでしょうか?
それは、粗利こそが「すべての利益の源泉」であり、
会社が「販管費」を支払うための唯一の原資だからです。
「販管費」とは、家賃、給料、役員報酬、広告宣伝費、交通費など、
「商品を売るために「間接的」にかかった費用」のことです。
(会社の儲けの構造イメージ)
売上 1,000万円
↓
売上原価 600万円(仕入や製造コスト)
↓
粗利 400万円 ← ココが会社の「支払いの原資」
↓
販管費 300万円(家賃・給料・広告費など)
↓
営業利益 100万円(本業での最終的な儲け)
上記の場合、粗利が300万円以下なら赤字。
それ以上なら、黒字。
つまり、粗利が足りなければ、会社は絶対に儲からないのです。
2. 要注意!「限界利益」と「粗利」の違い
ここで、多くの経営者が混乱するポイントを整理します。
前回学んだ「限界利益」と、今回学んでいる「粗利」。
どちらも大事ですが、使う目的がまったく違います。
(例)あなたは、パン屋さんです
限界利益(=現場の「GO/STOP」判断)
目的:この「特注パン100個」の注文、受ける?やめる?
計算:(パンの売値)−(変動費)
変動費:小麦粉代、卵代、パンを入れる袋代など(=売れたら増えるお金)
使い方:限界利益がプラスなら、固定費(家賃など)の回収に貢献するから「受ける」。マイナス(赤字)なら「断る」。
粗利(=経営の「儲かる仕組み」診断)
目的:ウチのパン屋、そもそもビジネスとして儲かる設計になってる?
計算:(パン屋全体の売上)−(売上原価)
売上原価:変動費(小麦粉・卵・袋)+ 製造にかかる固定費(パン職人の給料、工場の減価償却費、工場の家賃など)
使い方:粗利がカツカツなら、「パンの値段が安すぎる」か「原価が高すぎる」ということ。ビジネスモデル自体の見直しが必要
一番の違いは、「粗利」を計算するときの「売上原価」には、
固定費の一部(製造にかかる人件費や家賃など)が含まれる点です。
「限界利益」は、現場の営業マンが「この案件、受ける?」を判断するための「戦闘用」の数字。
「粗利」は、経営者が「ウチの会社、儲かる体質?」を診断するための「戦略用」の数字。
まずはこの違いをしっかり押さえてください。
3. 自社の「粗利率」を知らないのは「危険信号」
粗利は「金額」も大事ですが、経営者はそれ以上に「率」に注目しなければなりません。
粗利率(売上総利益率) = 粗利 ÷ 売上高 × 100
粗利率は、あなたの会社の「商品力」「価格設定」「仕入れ交渉力」がすべて詰まった「通知表」です。
では、自社の粗利率は高いのか、低いのか。
ここで、業種別の「粗利率」の平均目安を見てみましょう。(※中小企業実態基本調査 令和4年度実績より)
業種
平均粗利率
卸売業
約 15.1%
製造業
約 20.7%
運輸業
約 23.4%
小売業
約 30.4%
不動産業
約 46.3%
情報通信業
約 47.5%
専門サービス業
約 56.8%
宿泊業・飲食業
約 63.3%
いかがでしょうか?
あなたの会社の決算書と比べてみてください。
もし自社が小売業なのに粗利率が20%しかなければ、同業他社より「安く売りすぎている」か「高く仕入れすぎている」可能性が高い、という危険信号です。
4. 経営者が知るべき「粗利」3つの実務テクニック
粗利率の重要性がわかったら、次はこの数字を使って経営を「見える化」します。
テクニック1:「値引き」は「悪魔のささやき」
「売上がほしい。5%くらいなら」と安易な値引きをしていませんか?
その5%が、利益にどれだけインパクトを与えるか計算してみます。
「値引きの本当の恐ろしさ」がわかる魔法の計算式があります。
粗利の減少率 ≒ 値引き率 ÷ 粗利率
(例)あなたの会社の商品が、粗利率40%だったとします
この商品を5%値引きしたら、粗利(儲け)は何%減るでしょうか?
5%(値引き率) ÷ 40%(粗利率) = 12.5%
驚くことに、たった5%の値引きが、会社の「粗利」を12.5%も吹き飛ばしてしまうのです。
「5%値引き」は「ちょっと」ではなく、粗利を1/8消す行為だと知ってください。
値引くなら、その分の数量を「おまけ」するや、
前金入金、入金サイトの前倒しなどで取り返すのが鉄則です。
テクニック2:「率」と「回転」の掛け算で見る
粗利率が高い商品=良い商品、と決めつけてはいけません。
大事なのは「粗利率」と「販売数(回転)」をセットで見ることです。
商品A(高利益)
商品B(薄利多売)
単価
10,000円
5,000円
原価
6,000円
4,000円
粗利率
40%
20%
月の販売数(回転)
10個
100個
月間粗利額
40,000円
100,000円
一見、商品Aの方が粗利率が高くて優秀そうですが、
数が売れる商品Bの方が、会社に2.5倍の粗利(儲け)をもたらしています。
「粗利率は低くても、数が回る」そんな商品を見つけるのが、経営のツボです。
テクニック3:「商品×顧客」で“儲けの地図”を描く
「どの商品が儲かっているか」だけでなく、「どのお客様が儲けさせてくれているか」を把握していますか?
これを「見える化」するのが「粗利マトリクス」です。
顧客\商品
商品A(高単価)
商品B(中単価)
商品C(低単価)
顧客X
▲(赤字)
◯(そこそこ)
◎(主力)
顧客Y
◎(高粗利)
△(低回転)
▲(値引き多)
顧客Z
◯(そこそこ)
◎(主力)
◯(そこそこ)
こういう表をつくることで、「売上は大きいけど、実は赤字の顧客Yには商品Cを売るのをやめよう」とか、
「優良顧客の顧客Zには、新商品の提案を強化しよう」といった、感覚ではない「戦略」が立てられるようになります。
5. 粗利を増やす3つの処方箋
「売上を上げろ!」と号令をかける前に、社長がやるべきは「粗利率の改善」です。
売上はそのままでも、設計次第で利益は増えます。
(現状)売上5,000万円、粗利率30% → 粗利1,500万円
ここから、3つの処方箋を実行します。
価格を3%だけ是正する(単価アップ)「値上げは怖い」と思わず、チラシや見積もりの“端数”を整えるだけでも効果があります。→ これで粗利率が +3pt(33%に)
原価を2%だけ下げる(原価ダウン)仕入先の見直し、送料のまとめ交渉、決済手数料の区分け見直しなどで達成します。→ これで粗利率がさらに +2pt(35%に)
「儲かる商品の比率を増やす」(構成見直し)テクニック3の地図を見て、粗利率の高い商品を優先的に提案するよう営業トークを変えます。→ これで粗利率がさらに +2pt(37%に)
(結果)
粗利率 30% → 37%(+7pt改善)
→ 同じ売上5,000万円でも、粗利は1,850万円(+350万円)
粗利を350万円増やすために必要な売上は
350万円 ÷ 0.3 = 1,166万7千円(約1,167万円)
「粗利率の設計見直し」と「売上アップ」
どちらが現実的か、ここが「社長の決断」となります。
まとめ:社長の仕事は「粗利」を見ること
「売上」だけを追いかける経営は、アクセルだけを踏んで、燃料計を見ていない車と同じです。
いつガス欠(=資金ショート)になってもおかしくありません。
財務が苦手な経営者こそ、「売上」よりも「粗利(売上総利益)」の数字に注目してください。
まず、自社の決算書で「粗利額」と「粗利率」を確認する
同業他社の平均と比べて、自社の「儲ける力」がどの位置にあるか知る
「値引きの恐ろしさ」「率×回転」「商品×顧客」で、儲けの地図を確認
「単価」「原価」「商品構成」の3つにメスを入れ、粗利率を改善する
これが、「ドンブリ勘定」から抜け出し、「儲かる仕組み」を作るための、経営者としての一番確実な第一歩です。
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財務が苦手な社長のための『会社の稼ぎ』が見える化できる一番やさしい話 「限界利益編」
2025.10.29
忙しいあなたへ「1分で読める」AI要約
経営判断を「勘」や「売上優先」で行うと、知らないうちに赤字の仕事を受けているかもしれません。
そこで役立つのが、会社の「かせぎ」を示す限界利益(=売上-変動費)です。
これを使えば、「どこまで値引きできるか」という最低ラインが明確になり、
現場での価格交渉がスムーズになります。
さらに、月の固定費を稼ぐために必要な売上高である「損益分岐点」を計算すれば、
月々の最低目標がクリアになります。
案件を受ける際は、以下のの3ステップで判断しましょう。
「①限界利益はプラスか」「②損益分岐点の達成に貢献するか」「③資金繰りは問題ないか」
このフレームワークを使えば、日々の「受けるか、やめるか」の判断を、
自信を持って迅速に行えるようになります。
本文
「財務」で勝ち残りたい社長のための「限界利益」超入門
「この案件、受けるべきか…?」
「値引きの相談が来たけど、どこまで下げて大丈夫かね〜?」
経営者や次期経営者にとって、こういう「その場の判断」は毎日のようにやってくる。
でも、その判断を「勘」と「売上優先」で動いていませんか?
実はそれ、売れば売るほど赤字の仕事を受けているかもしれませんよ。
1.30秒でわかる 「かせぎ」の正体(=限界利益)
まず、今回覚えてほしいのはたった一つの言葉
限界利益=売上 − 変動費
「変動費」ってなにかというと、「売れたら増える費用」のこと
変動費(売れたら増える)
材料費、仕入代
外注費(作れば払う)
決済手数料(カードなど)
送料、梱包費
固定費(売れても変わらない)
給料、オフィス家賃
広告(定額)、リース代
管理系の人件費
限界利益は、「会社にどれだけ“かせぎ”が残ったか」を表します
【3行で計算】
もし1個1,000円の商品を、変動費600円で作って500個売ったら?
限界利益=(1,000−600)×500=200,000円
この20万円が、家賃・人件費などの「固定費」を支える「かせぎ」
2. 値引きOKの「ゼロ点」って、どこ?
「どこまでなら値引きして大丈夫か?」
これを教えてくれるのも、限界利益
【基本ルール】
ゼロ点=変動費
変動費600円の商品なら、600円で売ったら限界利益0円
それ以下の価格は、売れば売るほど赤字
安全マージンを足して「最低ライン」を決めよう(実務編)
送料の上振れ、手数料の見落としなどのいわゆる「諸経費」
600円 × 1.03(安全マージン3%)= 618円
この「618円」が、営業が死守するラインとなる
※マージンをどれくらいに設定するかは、個社判断
ここまでは、言ってみれば営業などの現場の仕事です。
この「618円」が現場で承知されれば
現場レベルで「値引き交渉」に対応ができます。
3. その仕事、受けていい?「損益分岐点」で見える化
売って残る「かせぎ」が限界利益なら
それで「月の固定費をまかなえるか?」を見るのが「損益分岐点」
通常、社員は自社の「固定費」がどれくらいなのか知らない
つまり、ここから先は「経営層」が判断を下すこととなります。
【計算】
損益分岐点=固定費 ÷ 限界利益率
限界利益率=(単価−変動費)÷ 単価
→ 例:(1,000−600)÷ 1,000=40%
固定費が月200万円ならば、200万円 ÷ 0.4=500万円
月500万円売れば、トントンということ。
まず500万円を超えるのが最低目標となります。
ここを超えると利益が増えていくことになります。
4. 【受注判定フロー】この3ステップで判断!
ステップ1:限界利益はプラスか?
「ゼロ点以下なら原則NG」それでも売るべきかどうかは
戦略的に考えましょう
ステップ2:損益分岐点を超える助けになるか?
今月あと少しで届くなら、受ける価値アリ
分岐点500万円、現在480万円、今回の取引の限界利益20万円
このような場合は、前向きに受注を検討しましょう
ステップ3:キャッシュは詰まらないか?
入金が遅くない?前金はもらえないか?
ここが一番重要です
限界利益がプラスでも、「入金が半年後」「前金ゼロ」といった条件だとどうでしょう?
先に変動費(仕入代)や固定費(給料)の支払いが来てしまい、資金繰りが詰まります(黒字倒産)
限界利益が薄い(例:5%)のに、大量の受注をすると、売れば売るほど手元の現金が減っていく事態にもなります
この3つがすべてOKなら、「GOサイン」を出せる仕事と言えます。
1つでも怪しい、もしくは「今回だけは」などの戦略的判断や
「支払い条件の交渉」などは、まさに「社長の腕の見せどころ」となります。
5.今日からやってみること
1.変動費の定義を社内で統一する
→ 材料費?外注費?まずは見える化
2.代表商品の「限界利益」「ゼロ点」を出してみる
→ 価格交渉が楽になり、判断基準が明確になる
3.損益分岐点(=最低売上目標)を1回だけでいいから計算する
→ 今月の「目安」が見えてくる。通常、固定費は大きく変わらないはず
6. よくある“落とし穴”と回避策
落とし穴:売上至上主義(限界利益が薄い大量受注で資金ショート)回避:限界利益率の下限を設定(例:20%未満の新規は要決裁など)
落とし穴:最低売価の未共有(現場が気づかず値引き)回避:商品別・顧客別の最低売価一覧を営業に配布
落とし穴:利益OKでもキャッシュNG(入金遅延)回避:着手金・中間金・サイト短縮を標準の提案項目に盛り込む
7. 30秒テンプレ(そのまま使える!)
限界利益:(単価_____ − 変動費_____) × 数量_____ = _____円
最低売価:変動費_____ × 1.03〜1.05 = _____円
分岐点:固定費_____ ÷ 限界利益率_____ = 売上_____円
まとめ
限界利益で「案件のかせぎ」を即確認
最低売価で「値引きのデッドライン」を全社共有
損益分岐点で「今月のクリアライン(最低目標売上高)」を把握
この3点セットで、「受ける・値引く・やめる」を1分で判断できます。
まずは主力商品の変動費→最低売価→限界利益率を今日中に書き出して、
営業全員に配布しましょう。明日から、判断の質が変わります。
ちょっとひと言
「数字は苦手でね」という経営者ほど、限界利益を知ると行動が変わってきます。
損益分岐点を知ると、会社にお金が貯まってきます。
「なんだこれ、赤字だったのか!」って気づいたらもう前進
頑張りすぎず、ひとつずつ、「数字と仲よく」していきましょう。
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ドンブリ勘定から卒業!現役経営者が教える「使える利益」の見極め方
2025.10.27
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「利益率が5%に落ちた」——この言葉、本当に危険なサインでしょうか?
実は「利益」には種類があり、どの利益を見ているかで意味は全く異なります。
この記事は、複雑な利益の種類を「現役経営者」の視点から超実践的に解説します。
「受注や値引き」の判断には限界利益、「会社の体力診断」には営業利益、
「資金力」を測るにはEBITDAといったように、どの利益をいつ使うべきかが一目瞭然。
さらに、「値引き上限の決め方」や「損益分岐点」の計算例も具体的で、すぐに自社で活用できます。
数字が苦手な経営者でも感覚的に理解でき、
ドンブリ勘定から脱却して「儲かる会社」へ体質改善するための、最初の一歩となる内容です。
本文
テレビから、こんな話が聞こえてきた。
「鳥インフルエンザにより鶏が大量に殺処分。卵の価格が高騰か」
以前は「物価の優等生」といわれた卵ですが
ここ数年は、スーパーで見ても、簡単に手が出ないほどの価格になっている。
卵をよく使う、とある飲食店に取材で訪れ、話を聞いていたのだが
その飲食店の店主さんが「卵の高騰は痛い。以前は利益率10%だったのが
今や5%しかない」と話していた。
それを聞いて、私の頭の中は「ん???」
「その利益率、どの利益率?」となったわけです。
もし、「粗利益率」が5~10%なら、普通の飲食店なら、とっくに閉店しているはずだ。
「経常利益率」がその数値なら、中小企業なら、十分優秀な会社と言えるし
ましてや、税引き後利益が、その数値なら「超優良企業」と言える。
このように会社を経営していく上で目にする「利益」や「利益率」と言われる数値ですが
数種類、存在しています。そしてその「用途」も様々。
そこで、本日から数回に分けて、この「利益」と言われるものを
会社経営をする上で、必要と思われる順番に、その「意味」や「用途」を
できるだけ専門用語を使わずに、記事にしていこうと思います。
「無資格・無免許・現役の経営者」の私だからこその感覚を生かしていきますので
「有資格・有免許」の方から見ると「不正確」なところはありますが
実際の経営の現場で、「そのまま」そして「感覚的に」使えるような記事にしたいと思います。
では、本日は「総論」です。
「わかっている」という方は、斜め読みでかまいません。
忙しいのに儲からない。値引きが常態化する。どこから手を付けるべきか。
その混乱は「利益の種類」と「使いどころ」が曖昧なことから生まれます。
まずは、判断の拠り所になる「利益の全体図」を描きます。
1. 5分でつかむ「利益の系譜」
売上 − 変動費 = 限界利益
限界利益=「売上から、売るたびに増える費用を引いた残りの利益」のこと
この残りで固定費(家賃や基本人件費)をまかなって、残った分が利益になります
使いどころ:受注可否・値引き・撤退の即断
注:変動費=売上に比例して増えるコスト(材料費、出来高外注、配送、決済手数料など)
売上 − 売上原価 = 粗利(売上総利益)
売上原価の中身
小売・卸:期首商品棚卸高+当期仕入−期末商品棚卸高(+仕入運賃など付随費用)
製造:期首製品棚卸高+当期製造原価−期末製品棚卸高
使いどころ:商品・顧客選び、在庫・仕入の計画策定
注:売上原価=「売れた分」に対応する仕入・製造コスト
粗利 − 販管費 = 営業利益
販管費=販売管理費=「販売するために使った費用(販売員の給与・広告費など)
「会社を管理・運営するために使った費用「役員給与・減価償却費など」
使いどころ:固定費(人・広告・オフィス・サブスク)の重さが戦略に合っているかの体質診断
営業利益 + 減価償却 = EBITDA(イービットディーエー イービッダー)
EBITDA=会社が「本業で生み出す現金の力」 現金そのものではないが、それに近いもの
使いどころ:返済余力・投資余力=キャッシュ創出力の目安
注:減価償却=設備の分割費用 実際に現金は出ていない「会計上の費用」
営業利益 ± 営業外収支 = 経常利益
使いどころ:金利・為替等を含む「平時の稼ぐ力」
特別損益調整 → 税引前利益 → 当期純利益
使いどころ:内部留保・配当・次の投資配分の源泉
一言でまとめると:意思決定は限界利益 体質は営業利益 資金はEBITDA
2. どの利益を「いつ」使うのか(30秒フロー)
受注・値引き:限界利益がプラスか?(マイナスなら単価交渉・撤退を検討)
商品ラインナップ:粗利率 × 回転(低粗利でも高速回転は武器)
固定費の重さ:営業利益率で体質を点検(重すぎる固定費は要検討)
資金余力:EBITDAで返済余力・投資の天井を把握(どこまで借りられる・攻められるか)
3. 数字を「使える化」するツール
限界利益表(商品別・ 顧客別)を作成・更新
営業・購買など社内全体で同じ表を見る(コスト意識の向上)
損益分岐点を全員で共有
「損益分岐点」とは「 利益がちょうど0円になるところ」
つまり、±0になる価格のこと
損益分岐点売上:固定費÷限界利益率(売上ベース・売上個数ベースの2種類)
粗利マトリクス(粗利率 × 回転)
在庫・仕入・販促の優先順位と直結
「@あたりの粗利率が小さいが販売個数や回転がよい商品」
「販売個数や回転率は悪いが@あたりの粗利率がよい商品」
どちらに注力し営業をするのかの経営判断ができる
簡易EBITDA表
返済予定と比べる。
投資余力=EBITDA − 年間返済
お金のブロックパズル
会社のお金をたった1枚の紙で直観的に誰もが理解できるようになるツール
経営判断の際に用いるのは無論、会社全体の「共通言語」として使用することにより
経営層から現場まで、意思決定に際し、ブレが少なくなる
4. ミニ例:値引き上限を「秒」で決める
単価1,000円、変動費600円 → 限界利益400円(限界利益率40%)
固定費が月200万円なら、損益分岐点売上高:200万円÷40%=500万円
値引き相談が来たら:
限界利益ゼロの単価=変動費=600円
実務は配送・決済手数料で変動費が膨らむため、安全マージンを引いた「最低販売価格」を部門で統一
計算例
変動費600円+配送/決済等50円=実務変動費650円 マージン20円 → 最低販売価格=670円(ここを絶対に割らない)
ちなみに「損益分岐点売上の500万円を超えて売上が立った場合
500万円を超えた売上のうち、変動費を差し引いた部分が、そのまま利益になる
ポイント:限界利益が見えていれば、感情ではなく数字で「線」が引けます。
5. よくある誤解と処方箋
誤解:粗利が高ければ正義
処方箋:粗利率だけでなく「回転」と「在庫滞留」を同時に見る
誤解:売上のために値引きは仕方ない
処方箋:限界利益のゼロ点を可視化し、超えてはいけない線を現場に渡す
誤解:黒字なら安心
処方箋:EBITDAと運転資金(売掛・在庫・買掛)を見て、キャッシュで判断
黒字は「利益」の話であり、「現金」の話ではないことを理解する
6. 今日からのチェックリスト
自社の「変動費」の定義を決める
上位3商品・3顧客の限界利益率を算出(毎月更新)
固定費と損益分岐点売上を全社共有(壁に貼る)
経営会議で「EBITDAと年間返済予定」を同じ紙で確認
次回から各論で「限界利益 → 粗利 → 営業利益 → EBITDA → 経常・純利益」を深掘りします。
まずは「利益の全体図」を作成し、会社のお金の流れを全社員で共有。
コスト意識が醸成され、利益を生みやすい体質へと変えましょう。
何故かアップしたいイラストがアップできません。
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混沌の時代を生き抜く「質問力」と「発問力」─今、求められている「思考の質を高める最強の武器」
2025.10.22
1分で読めるAI要約文
現代は情報が溢れ、常識が日々変わる乱世のような時代です。
そんな中で経営者や教育者に必要なのは、「質問力」と「発問力」です。
これらは本質を見抜き、創造的な価値を生み、組織や人と深くつながる力を意味します。
具体的には、本質的な問いを立てることで情報の真偽を見極め、
新たなアイデアを掘り起こし、質問を通して信頼関係を築くことが求められます。
日々の習慣として、沈黙を恐れず問いを多角的に設計し記録し、
前置きで相手の思考を促すことが効果的です。
問いを持ち続けることで、混迷の時代をたくましく生き抜く力となります。
本文
情報が洪水のように押し寄せ、昨日の常識が今日に覆る時代。
経営者や教育者に必要なのは、正解を急ぐ姿勢ではなく、
物事の本質を捉え進む道を切り拓く「問いの力」です。
本稿では、ビジネスの成果の最適化に効く「質問力」と、
学習の認知プロセスを整える「発問力」を軸に、
なぜ今それが必須なのか、どう鍛え、どう使うかを具体的に示します。
なお、本稿では「質問力」と「発問力」を総称して「問いの力」とします。
まずはその定義ですが(読み飛ばしていただいて問題ありません)
質問力: 相手や状況から本質的な情報・洞察・合意を引き出すために、
適切な問いを設計し、投げかけ、聞き取り、
次に繋げる総合的なコミュニケーション能力(主にビジネスや対人場面)
発問力: 学習者の思考を促し、理解を深めるために、
学習目標に沿って問いを設計・提示する教育的な能力(主に授業・指導場面)
共通点は「目的に合う問いを設計して、思考を動かし、行動や理解に変化を生むこと」
相違点は、質問力が広く実務・対話での成果最適化、発問力が学習者の認知プロセス最適化に重心がある点
と整理できます(筆者の解釈を含む)
では、なぜ、経営者や教育者と言われる人たちに、この能力やスキルが必要なのでしょうか?
これには、現代の私たちを取り巻く環境や未来の社会で生き抜いていくための術が、
隠されているためだと、私は考えます。
1. 思考の解像度を上げ、本質を見抜く力
私たちは日々、膨大な情報に晒されています。
その中には真実もあれば、誤情報や意図が隠された情報も紛れ込んでいます。
「これは本当に正しいのか?」
「なぜ、このような情報が今出てくるのか?」
「その根拠は何か?」
こうした問いを立てることで、情報の渦に飲み込まれることなく、
物事の表面だけをなぞるのでなく、その裏側にある本質や構造を見抜くことができます。
経営判断においても、表面的な数字や意見だけでなく、
その奥にある背景や真の課題に質問のメスを入れることで、思考の解像度が格段に上がります。
2. 常識を打ち破り、新たな価値を創造する力
イノベーションは、いつの時代も「当たり前」を疑う問いから生まれます
「なぜ、こうでなければならないのか?」
「もし、〇〇がなかったらどうなるだろう?」
「もっと良い方法はないだろうか?」
例えば、Appleのスティーブ・ジョブズは
『なぜ電話は、こうでなければならないのか?』と問い続け、
その結果、iPhoneが生まれたと言われています。
このように、こうした問いは、凝り固まった常識や固定観念に風穴を開け、
誰も思いつかなかったようなアイデアや、新しい価値を創造するきっかけとなります。
変化の激しい時代において、現状維持は緩やかな衰退を意味します。
問い続けることこそが、組織の停滞を打破する原動力となるのです。
3. 人と深くつながり、組織を自律させる力
良い質問は、相手への関心の現れです。
自分の考えを一方的に話すのではなく、相手に質問を投げかけ、その答えに真摯に耳を傾ける。
この対話のプロセスを通じて、私たちは他者を深く理解し、共感し、強固な信頼関係を築くことができます。
特に経営者や管理職が「質問を投げかける」ことは、
スタッフに考えさせ、自ら答えを導き出す「癖」をつけさせるためにも非常に大切です。
多様な価値観を持つ人々が共存する現代社会において、
この対話を通じた相互理解の力は、個人としても組織としても、不可欠なスキルと言えるでしょう。
例えば、 Googleでは、「何がチームの生産性を最も高めるのか?」という問いに対し、
「プロジェクト・アリストテレス」という大規模な社内研究を行い、
その結果は、能力やIQの高い人間を集めるよりも、
「心理的安全性の高い組織」が最も生産性が高いという結果となったそうです。
そして、この「心理的安全性」を高める手段こそが「質問力」なのです。
質問力を磨くための「3つの習慣」と「考えやすい質問の仕方」
では、この「質問力」をどうやって磨けば良いのでしょうか?
ここでは、テクニックではなく「基本姿勢」を紹介します。
習慣① 沈黙を怖がらない
すぐに答えが返ってこない時に起こる「沈黙」
しかし、この「沈黙の数秒」が、思考の深さを生み出します。
「真剣に考えているんだな」という捉え方をしましょう。
習慣② 問いを「誰に」向けるかを意識する
相手、自分、顧客、社会
問いの矢印を変えるだけで、視点が広がり、多角的な思考が可能になります。
習慣③ 問いを書き留めるノートを持つ
日常の中で浮かんだ「なぜ?」「どうすれば?」をメモする習慣をつけましょう。
それが、あなたの思考を深める「元帳」になります。
スムーズに答えを引き出す「前置き」の技術
「もっと考えて行動してほしい」という思いから発した質問でも、
伝え方を間違えると、相手は思考を停止したり、的外れな答えを返したり、
さらには不満を感じることもあります。
相手が考えやすい質問の仕方を意識しましょう。
ポイントは、「前置きをしてから質問する」ことです
NG例:社長がいきなり「佐藤営業部長、先月の売上、前年対比はどうでした?」
OK例: 「1ヶ月前の会議では、『今月こそ売上目標をクリアしよう!』と皆で話し合いましたよね。
その結果を今から部長の佐藤さんに聞きたいと思います。佐藤さん、どうでしたか?」
このように、質問の「意図」や「背景」を前置きとして伝えることで、
相手は、対処の方法など考える準備ができ、スムーズな対話へとつながります。
これは、複数人に意見を求める際にも同様に有効です。
ちょっとしたゆとりがコミュニケーションを円滑にしてくれるのです。
まとめ:問いを持つ者こそが未来を創る
答えのない時代だからこそ、問い続けることそのものに価値があります。
経営も、人材育成も、そして人生も「正解」ではなく「問い」が未来を拓く時代です。
さあ、あなたも「問いの力」という最強の武器を手に、この混沌とした現代という名の乱世を、たくましく生き抜いていきませんか?
乱世を生き抜く者とは、答えを知る人ではありません。
問いを持ち続ける人こそが、未来を創る人になれるのです。
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倒産リスクを減らす『現金基準』の意思決定
2025.10.16
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「黒字なのにお金が足りない」という状況は、現金管理の不足が原因で起こります。
会社が倒産する直接の理由は「利益不足」ではなく「現金不足」。
利益は未来の入金を含む「意見」ですが、現金は誰の目にも明らかな「事実」であり、
給与や家賃など支払いには現金のみが使えます。
そこで、最低限確保すべき現金ラインを設定して、
それを守るための借入や節税、投資などを判断しましょう。
最初にチェックすべきは貸借対照表(B/S)の現金残高であり、
今後の資金繰り表を作成・更新することで、将来の資金不足を防げます。
結局、「Cash is King」という言葉は知っているだけでは意味がなく、
実際に現金を「王様」としてあらゆる経営判断を下すことこそが、
会社の未来を支える最短距離なのです。
本文
先日、とある経営者と話をした際に、こんな質問をされました。
「この投資をしても大丈夫なのか判断がつかない」
その質問に対して「考え方」をお伝えしたのですが
その重要性が腹落ちしていない様子でした。
「このままでは、まずいことになるかもしれない」
そう感じたのが本稿を書こうと思ったきっかけです。
財務の「キホンのキ」ともいえる部分ですので
是非一読してみて下さい。
なぜ「現金は王様」なのか
「黒字のはずなのに、月末がいつも苦しい」
「事業も順調に成長している」
なのに、月末が近づくと現金がいつも心許ない。
この矛盾は、黒字倒産の入り口です。
「会社は利益不足では倒れず、現金不足で倒れる」
まずは、この現実をしっかりと腹落ちさせましょう。
この記事では、なぜ「Cash is King(現金が王様)」なのか、
そして、現金を基準とした意思決定がなぜ大切なのかを、
具体的な実践方法と共にお伝えします。
これは、財務の専門家でなくとも、すべての経営者、そして次代を担うリーダーが必ず身につけるべき経営の羅針盤です。
利益は「意見」 キャッシュは「事実」
P/Lの利益には売掛金や在庫など、まだ現金化されていない要素が混ざります。
解釈で揺れる「意見」に近い数値です。
一方、B/Sの現金・預金残高は今この瞬間(決算日)に使える資金のことです。
誰が見ても変わらない「事実」であり、企業の生死を握ります。
現金が「王様」である3つの理由
1.支払いは現金でしかできない
給与・家賃・仕入・税・返済等。支払日に残高が尽きたらゲームオーバー
2.現金は選択肢と時間を買う
想定外や好機に、撤退/延命/再投資を選べるのは手元資金がある会社だけ
3.成長は先払い
売上増は在庫・売掛・買掛を膨らませ、黒字でも資金は痩せる。
伸びる会社ほど現金管理が生命線
決算書が雄弁に語る「現金こそが最優先」という真実
多くの経営者は、決算書を受け取ると真っ先に損益計算書(P/L)を見て、
「今期は儲かったか、損したか」に一喜一憂しがちです。
しかし、決算書の正式な並び順は、必ず貸借対照表(B/S)が先で、その次に損益計算書(P/L)です。
そして、そのB/Sの一番上に記載されている勘定科目(トップライン)こそが、「現金及び預金」です。
これは偶然ではありません。
決算書は、「経営者よ、何よりも先に会社の現金の状態を確認しなさい」という、
財務や経営者としての原則に基づいた強力なメッセージを発しているのです。
財務分析とは、小難しい経営指標(〇〇比率など)をこねくり回すことではありません。
まず自社の現金を、以下の3つの視点で徹底的に分析することからはじめましょう
ストック:確保すべき現金残高を維持できているか
増減:過去1年~3年間の残高推移
予測:半年後・1年後の見込み残高
経営判断のすべてを「最低現金基準金額」から逆算する
まず自社の最低現金基準金額(目安:固定費の6か月分 月商の3か月分など)を決める
以降の意思決定はこの物差し一本です
借入は悪か? 現金残高維持のための借入は「善」 「借りるか否か」ではなく、「必要現金を守れるか否か」が判断基準
節税は? 現金を痩せさせる(基準金額を割り込む)節税は本末転倒
投資は? 投資後も基準金額を割らないかで判断。割るなら借入をする
在庫は? 在庫増により現金が基準額を割るなら減らす。維持できるなら必要分は持つ
明日からできる現金管理 4ステップ
3か月先までの資金繰り表を作り毎週更新(ズレ=改善点)
最低現金ライン(黄ライン/赤ライン)を設定し、到達前に手を打つ
回収前倒し・支払後倒しを標準化(着手金/中間金・口座振替・サイト交渉)
週15分の資金会議:入出金差分→危険ポイント→誰が/いつまでに/何をの3点だけ決める
まとめ:未来の自由は、今日の現金残高から生まれる
利益は過去の採点、キャッシュは未来の自由
この言葉を、ぜひあなたの経営の第一の哲学としませんか?
すべての意思決定を「その決断は、我々が守るべき現金を増やすのか、減らすのか?」
という問いに立ち返って行う。
これが、不確実性の高い時代を生き抜き、いかなる環境変化にも揺るがない、
強くしなやかな会社を創り上げるための最短距離です。
「Cash is King」を誰かの名言として知っているだけでは意味がありませんし、
本当に自社で現金を「王様」として扱えているかどうかを見直してみましょう。
さあ、今日からまずは、自社の預金残高を改めて確認し、
4週間先までの入出金予定を書き出すことから始めてみませんか。
その小さな一歩が、あなたの会社の未来を大きく変えるのです。
2025.12.03
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
資金繰りに悩む中小企業の社長は、「今月末、本当にお金が足りるのか」という不安に縛られ、
視線が「未来」ではなく「足元」に釘付けになりがちです。
ドラッカーの有名な「3人のレンガ積み職人」の寓話が示すように、
同じ仕事でも「労働」「手段」「使命」としてどう意味づけるかで、やる気も人生の充実度も大きく変わります。
本来、経営者は「大聖堂を建てる」ような理想や使命を持っていたはずなのに、
日々の資金繰りや雑務に追われるうちに、「ただレンガを積むだけ」の状態になってしまうことがあります。
その不安の正体の一つが、「どんぶり勘定」によるお金の見えなさです。
不安を減らす最初の一歩は、難しい会計ソフトではなく「紙とペン」での見える化です。
通帳残高、今後の入金予定、今月の支払予定の3つを書き出し、
差額を計算するだけで、漠然とした恐怖は「対処可能な課題」に変わります。
事実に基づいて判断できるようになれば、心に余裕が生まれ、
再び「3人目の職人」のように、経営を自分の使命として捉え直せるようになります。
日々の資金チェックや資料作成などの「レンガ積み」も、
「社員が安心して働ける環境を守る」「お客様の未来を拓く」といった「大聖堂」につながる行為として再定義できたとき、
経営は苦役から誇りある仕事へと変わります。
資金繰りの不安を一人で抱え込まず、まずは紙に書き出すことから始め、
足元を固めながら、もう一度自分だけの「大聖堂」を見上げていきませんか。
本文
「今月末、本当にお金が足りるだろうか…」
「どこまで支払いを待ってもらえば、なんとかなるか…」
日々奮闘する中小企業の社長様とお話ししていると、こうした切実な声をお聞きすることが少なくありません。
どれだけ売上があっても消えない、漠然とした不安。
誰にも相談できず、一人で通帳を見つめる夜。
「数字が見えない不安」は、社長を孤独にします。
そして何より恐ろしいのは、その不安が社長の視線を「足元」に釘付けにし、
本来見るべき「未来」を見えなくしてしまうことです。
今日は、ある有名な寓話を通して、経営者であるあなたが「本来あるべき姿」を取り戻すためのヒントをお話しします。
■ ドラッカーが教える「3人のレンガ積み職人」の話
ピーター・ドラッカーの著書でも引用される有名な話をご存知でしょうか?
ある旅人が、建築現場で働く3人の職人に「ここで何をしているのですか?」と問いかける話です。
1人目の職人は、不機嫌そうに答えました
「見ればわかるだろ。レンガを積んでいるんだよ。朝から晩まで大変な仕事だ」
彼は、仕事を単なる「労働」、あるいは苦役として捉えています。
2人目の職人は、淡々と答えました
「大きな壁を作っているんだ。家族を養うためだし、腕には自信があるからね」
彼は、仕事を「キャリア」や手段として捉えています。
3人目の職人は、目を輝かせて空を見上げ、こう答えました
「私は、歴史に残る偉大な大聖堂を造っているんだ! ここは多くの人が祈り、心の安らぎを得る場所になるんだよ」
彼は、自分の仕事を「使命」として捉え、社会的な意義を感じています。
3人とも、やっている作業は同じ「レンガ積み」
しかし、自分の仕事をどう意味づけているかによって、
モチベーションも、仕事の質も、きっと人生の充実度もまったく変わってきます。
ドラッカーがこの話で問いかけたのは、
「あなたにとっての「大聖堂」は何か?」
「うちの会社は、何のために存在しているのか?」
という、仕事の目的と使命です。
■ なぜ、社長が「1人目の職人」になってしまうのか?
私たち経営者は、創業した当初、間違いなく「3人目の職人」だったはずです。
「世の中をこう変えたい」「お客様を笑顔にしたい」
心の中に、自分だけの「大聖堂」の設計図を持っていたはずです。
しかし、日々の経営の中で、いつの間にか「1人目の職人」のように、
「ただ目の前のレンガ(資金繰りや雑務)を積むこと」に追われてしまってはいないでしょうか?
「大聖堂を建てたい」という想いがあっても、
足元の土台がグラグラしていては、安心して空を見上げることはできません。
その「グラグラする土台」の正体こそが、「どんぶり勘定」による「お金の不安」なのです。
■ 不安を消す最初の一歩は「見える化」
「会計ソフトもExcelも苦手だ」
そう思う社長こそ、まずは「紙とペン」を用意してください。
ドラッカーが言うように「個々の作業を全体の目的へ結びつける」ためには、
まず作業の現場(資金状況)を直視し、コントロール下置く必要があります。
やるべきことは、以下の3ステップだけです。
通帳の残高(いまある現金)を書く
これから入ってくる売上(入金予定)を書く
今月支払うもの(家賃・仕入・給与など)を書く
これらを書き出し、差額を計算してみてください。
「数字が見えない」状態とは、暗闇の中を歩くようなものです。
お化けが出るかどうかわからないから怖いのです。
しかし、紙に書き出して「見える化」すれば、それは単なる「課題」に変わります。
「あ、今月は少し足りないな。じゃあ、あの支払いを相談しよう」
「意外と余裕があるな。じゃあ、以前から考えていたあの設備投資を検討しよう」
感情ではなく「事実」で判断できるようになれば、社長の心に「余裕」が生まれます。
その余裕こそが、あなたを再び「3人目の職人」へと戻してくれるのです。
■ 「レンガ積み」を「大聖堂建設」へ変えるのは、あなた自身
仕事の意味は、誰かが決めてくれるものではありません。
日々の資金管理や地味な事務作業。これらは一見、辛い「レンガ積み」に見えるかもしれません。
しかし、これらが「会社という大聖堂」を支えるための強固な土台作りだと再定義できたとき、
そこには責任感と誇りが生まれます。
「私の大聖堂は何か?」
資金繰りが見えるようになり、不安が解消されたとき、ぜひもう一度この問いを自問してみてください。
「毎日の資金チェック(レンガ)」は、「社員が安心して働ける環境を守ること(大聖堂)」
「資料作成(レンガ)」は、「お客様の未来を拓く手伝いをすること(大聖堂)」
そう思えた瞬間、あなたの経営は「苦役」から再び「使命」へと変化します。
資金繰りに悩むのは、あなただけではありません。
一人で抱え込まず、まずは紙に書き出すことから始めてみませんか?
足元の不安を消して、一緒にあなただけの「大聖堂」を見上げましょう。
必要であれば、いつでも一緒に「レンガ積み」しますよ。
2025.11.28
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
多くの経営者は「税金を払うくらいなら経費で使う」と考えがちですが、財務に強い経営者は違います。
当期純利益は単なる「今年の成果」ではなく、貸借対照表の自己資本となり、会社を守る「筋肉」になるからです。
過度な節税は自己資本を削り、銀行からの信用も失います。
銀行は「当期純利益+減価償却費」で返済能力を判断するため、
利益ゼロの会社は「借金を返せない会社」と見なされます。
ただし、当期純利益には2つの罠があります。
①土地売却益などの特別利益で実力を見誤る ②利益はあるのに現金がない状態。
経営者は「調整後当期純利益(特別損益を除いた実力値)」で判断すべきです。
税金は「国へのお金」ではなく「財務基盤強化と資金調達力向上のための投資」です。
目先の節税より、10年20年続く「潰れない会社」を目指しましょう。
本文
「一生懸命働いて利益が出たのに、最後にガッポリ税金で持っていかれた」
「税金を払うくらいなら、経費を使ってしまえ!」
決算の時期、そんな「節税」の誘惑に駆られることはありませんか?
お気持ちは痛いほどわかります。
しかし、財務に強い経営者は、あえて「しっかりと税金を払い、当期純利益を残す」
という選択をする場合があります。
なぜなら、この「当期純利益」こそが、銀行に頼らず会社を守る「最強の盾(自己資本)」になるからです。
こんにちは。財務が苦手な社長や次期経営者のための超入門シリーズ、いよいよ損益計算書(P/L)の最終行です。
第1回:総論
第2回:限界利益(受ける・やめるの判断軸)
第3回:粗利(儲かる仕組みの設計図)
第4回:営業利益(経営力の通信簿 )
第5回:中小企業の体力を測る「EBITDA」(会社の体力測定)
第6回:経常利益 会社全体の「総合評価」
第7回:当期純利益 会社の筋肉量(潰れにくい会社の原点)
今回は、会社の寿命を決める最終成果、「当期純利益(とうきじゅんりえき)」について解説します。
「最後の一行」を見る目が変われば、あなたの経営判断は劇的に変わります。
1. 当期純利益とは? ——「ゴール」であり「スタート」
これまで見てきた「経常利益(平時の総合点)」に、最後の仕上げをしたものが当期純利益です。
当期純利益 = 経常利益 ± 特別損益 − 法人税等
ここで登場する要素は2つです。
特別損益:「今年だけ」「異常な」出来事
(例:土地を売った利益、災害による損失、中小企業の役員の退職金など)
法人税等:利益に応じて国に払う「場所代」や「会費」のようなもの
これらをすべて精算し、最後に会社の手元に残った「完全な手取り」
それが当期純利益です。
2. なぜ「税金を払ってでも」利益を残すべきか?
まず、はじめに言っておきます。
私は「節税なんて絶対ダメだ」と言っているわけではありません。
「節税すべき会社」と「節税してる場合ではない会社」があるということです。
そして、中小企業の多くは経験上「後者」であると思います。
また、意識というか考え方として「節税」ではなく「利益の繰り越し」
という観点から「やる・やらない」を決めれなければなりません。
私が考える「節税している場合ではない会社」については
後日、書いてみたいなと思います。
では、本題へ。
多くの経営者が「当期純利益=単なる今年の結果」だと思っています。
しかし、財務の視点は違います。
「当期純利益は、貸借対照表(B/S)へ移動し、会社の「肉体」になる」
どういうことでしょうか?
実は、P/L(成績表)とB/S(財産目録)は、この「当期純利益」という一本のパイプでつながっています。
あなたが稼ぎ出し、税金を払った後の利益は、B/Sの「利益剰余金(内部留保)」という場所に貯金されます。
これは「自己資本」の一部となり、誰にも返す必要のない、会社自身の純粋な体力となります。
黒字(納税) = 会社の筋肉(自己資本)が増える
赤字(過度な節税) = 会社の筋肉を削って痩せ細る
「税金を払いたくないから利益を消す」というのは、
「自ら会社の肉体を削り、防御力を下げている」のと同じことなのです。
また、多くの経営者が憧れる「無借金経営」
節税という行為は、無借金経営と逆行する行為と言えます。
当たり前といえば当たり前ですよね。
キャッシュの源である「利益」を減らす行為が「節税」なのですから。
3. 「見かけの数字」に騙されるな! 2つのワナ
ただし、この当期純利益には、経営判断を誤らせる「ワナ」があります。
数字の大小だけで一喜一憂せず、必ず中身を確認してください。
ワナ①:「特別利益」で実力を見誤る
「今年は当期純利益が5,000万円も出た! 絶好調だ!」
よく見ると、本業(営業利益)は赤字で、昔買った「土地の売却益」が乗っているだけだった。
これは一番危険なパターンです。
土地は一度売ったら終わり。来期は同じ利益は出ません。
経営者は必ず、以下の「調整後」の数字を頭の中で計算してください。
調整後当期純利益(実力値) = 当期純利益 − 一時的な特別利益
銀行との面談でも、「当期純利益は多いですが、土地の売却益を除いた『実力値』はこれくらいと認識しています」
と説明できれば、「数字が見えている社長だ」と信用が急上昇します。
上記の話は、社長が口にしなくても銀行員なら誰でも即座に計算しています。
万が一「当期純利益5000万て、すごいですね~」と言っている銀行員がいたら
担当替えをお願いしましょう。
だからこそ、銀行員が頭の中で計算するより先に社長から発言することが大切です。
ワナ②:「利益はあるのに、お金がない」
当期純利益はあくまで「計算上の利益」です。
本当に大切なのは、ここから「借金の元本返済」を行わなければないということです。
ここでも、銀行員の頭の中をご紹介すると
返済能力 ≒ 当期純利益 + 減価償却費となります。
もし、「節税対策で利益はトントン(0円)です」とした場合、
減価償却費が少なければ、銀行からは「借金を返す原資がない会社」とみなされます。
「税金を払う」とは、国にお金をあげることではなく、
「財務基盤を強くし、銀行からの信用(資金調達力)を買うためのコスト」なのです。
4. 社長のための「当期純利益」活用チェック
では、具体的にこの数字をどう経営に活かすか。
毎回の決算で、この3ステップを確認してください。
「調整後当期純利益(実力値)」はいくらか?
特別損益(まぐれや事故)を除外した、本当の実力を把握する
「自己資本」は積み上がったか?
今回の利益で、自己資本比率は改善したか?(目指せ20〜30%以上)
「返済・配当・投資」のバランスは適正か?
残った利益の範囲内で、借金を返し、株主(自分)へ配当し、未来へ投資できているか?
まとめ:P/Lの終わりは、B/Sの始まり
当期純利益は、ゴールではありません。
来期のB/S(会社の体力)へのスタート地点です。
営業利益で「今、稼ぐ力」を示し
経常利益で「平時の実力」を示し
当期純利益で「未来への蓄積」を残す
「今年はこれだけ利益が出たから、半分は税金を払って、残りを会社の筋肉(自己資本)にしよう」
そう胸を張って言えるようになった時、あなたは「節税」という目先のテクニックを卒業し、
10年、20年と続く「潰れない会社」の設計者になっています。
さあ、改めて直近の決算書を見てみてください。
一番下の行にある「当期純利益」
その数字は、あなたの会社のB/Sに積み重なり、未来のあなたの会社を守る盾になっていますか?
2025.11.19
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「営業利益は黒字なのに、なぜか銀行の反応が鈍い…」
その理由は、銀行が金利上昇時代において「経常利益」を重視しているからです。
経常利益とは? 本業の儲けである「営業利益」に、
借入金の利息など財務活動の結果(営業外損益)を加えた「会社の平時の総合点」です。
なぜ今、重要なのか? 銀行は「利息をきちんと払った後でも利益が残る会社か」を経常利益で判断します。
低金利時代は問題になりませんでしたが、金利が1%上がれば、借入が3億円の会社は年間300万円も利益が吹き飛びます。
この金利への耐性が問われているのです。
経営者がすべきこと
本業を強くする:全ての源泉である「営業利益」を伸ばす。
財務を管理する:「金利が1%上がったら利息はいくら増えるか」を把握し、借入を見直すなどの対策を打つ。
正しく伝える:為替差益など一時的な利益を除いた「実力値」で会社の状況を把握し、銀行に説明することで信頼を高める。
これからの時代、本業の強さに加え、「お金のやりくり」の巧拙が会社の生死を分けます。
まずは自社の借入金から、金利上昇の影響額を計算してみましょう。
本文
「営業利益は、今期もなんとか黒字を確保した」
「EBITDA(体力)も、プラスを維持している」
なのに、銀行の担当者と話をすると、どうも反応が鈍い。
「最近、金利が上がってきているので、御社の『ココ』の数字が気になりまして…」と、決算書の別の場所を指さされた。
そんな経験はありませんか?
こんにちは。財務を勉強したい若手経営者のための超入門シリーズ、第6回です。
第1回:総論
第2回:限界利益(受ける・やめるの判断軸)
第3回:粗利(儲かる仕組みの設計図)
第4回:営業利益(経営力の通信簿 )
第5回:中小企業の体力を測る「EBITDA」(会社の体力測定)
第6回:経常利益 会社全体の「総合評価」
今回は、これまでの「本業の儲け」の話から一歩進んで、「会社全体の平時の総合点」を示す
「経常利益(けいじょうりえき)」について解説します。
特に、これから金利が本格的に上昇していく時代において、
この「経常利益」を見ていない経営者は、静かに会社の体力を奪われることになります。
1. 「経常利益」とは? 「平時の総合点」
まず、EBITDAの回で、「利益と現金は違う」という話をしました。
今回は、「利益」の中でも種類がある、という話です。
「営業利益」は、あくまで「本業(パン屋ならパンを売る)」だけで稼いだ利益でした。
では、「経常利益」とは何か?
それは、「本業の儲け」に「本業以外での儲けや損失」を足し引きした数字です。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用
この「営業外」というのがクセモノです。
これは、「会社の財務活動や投資活動の結果」だと考えてください。
営業外収益(プラス要因)
受取利息:銀行にお金を預けて得た利息
受取配当金:他社の株を持っていて得た配当
為替差益:円安になって、ドル建ての売上が円換算で増えた
不動産からの受取賃貸料・地代
営業外費用(マイナス要因)
支払利息:銀行から借りたお金の「利息」
為替差損:円高になって、ドル建ての仕入れが円換算で増えた
なぜ、これが「経常(=常に起こる)」なのでしょうか?
それは、借金があれば「支払利息」は毎年必ず発生するからです。
輸出入があれば「為替」の影響は常に受け続けるからです。
つまり、経常利益とは、
「本業の成績(営業利益)」+「お金のやりくり(財務活動)の成績」
この2つを合計した、「会社が平常時に出すことのできる総合点」となります。
2. なぜ今、「経常利益」が最重要なのか?
「営業利益さえ出ていれば、本業は順調なんだから良いじゃないか」
そう思っていた時代は、終わりつつあります。
なぜなら、「金利がほぼゼロ」という異常な時代が終わったからです。
使いどころ1:銀行(金融機関)との対話
銀行が融資の審査をするとき、どこを見ていると思いますか?
もちろん「営業利益(本業の強さ)」や「EBITDA(返済の体力)」も見ます。
しかし、彼らが最も重視する指標の一つが「経常利益」です。
なぜなら、銀行への「利息」は、「営業外費用」として支払われるからです。
社長の視点:「営業利益が1,000万円出た!すごいぞ!」
銀行の視点:「営業利益は1,000万円か。でも、ウチへの支払利息が年間800万円あるな。
差し引くと経常利益は200万円。これでは、ちょっとしたアクシデントで赤字(経常赤字)になるな」
銀行は、「利息を払った後でも、ちゃんと利益が残る会社か?」を見ています。
経常利益は、銀行にとって「この会社は利息を払う体力があるか」
を見るための、最も直接的な指標なのです。
使いどころ2:金利上昇局面での「耐性チェック」
これまでは「超低金利」だったので、借入が多くても支払利息はたいした額ではありませんでした。
しかし、もし金利が 1% 上がったら?
ここで、社長が絶対に把握すべき「金利感応度」の目安式があります。
金利上昇による影響額(年間) ≒ 有利子負債 × 1%
借入金が 3億円 ある会社
→ 年間の支払利息が 300万円 増えます。(=月25万円)
借入金が 10億円 ある会社
→ 年間の支払利息が 1,000万円 増えます。(=月84万円)
営業利益(本業の儲け)がまったく同じでも、支払利息が増えた分だけ、経常利益はそのまま減ってしまうのです。
これが「金利時代に効く損益管理」の意味です。
これができていないと、気づかぬうちに利益が流出し、ジワジワと経営が苦しくなります。
3. 経常利益の「ワナ」:「実力」と「まぐれ」の見誤り
この「経常利益」は、総合点であるがゆえに、見方を間違えると経営判断を誤ります。
失敗あるある:「偶発的な営業外益」を「実力」と誤解する
今期の決算書が下記だったとします。
営業利益:100万円(本業はギリギリ)
営業外収益:+2,000万円(たまたま円安が進み、莫大な為替差益が出た)
経常利益:2,100万円
これを見て、「今期は絶好調だった!来期もこの調子だ!ボーナスを増やそう!」
と判断したら、どうなるでしょう?
来期、為替が元に戻ったり、円高に振れたりしたら、一気に「経常赤字」に転落します。
これは「実力」ではなく、たまたまの「ラッキー(一時的要因)」です。
「受取配当金」で経常利益が良く見える場合も同じです。
解決策:「調整後経常利益」で見るクセをつける
経営者は、経常利益を見るとき、必ずその中身を分解し、
「実力」と「一時的な要因(まぐれ)」を分けて考える必要があります。
そのための便利な道具が「調整後経常利益」です。
調整後経常利益(平時の実力) ≒ 経常利益 − 一時的な営業外要因
決算書や試算表の「営業外収益」の中身を見たら、
「来期も続くものか?」を自問自答してみて下さい。
4. 社長がすべき「経常利益の磨き方」3ステップ
では、私たちは「経常利益」とどう向き合い、どう改善(磨いて)いけばよいのでしょうか。
やるべきことは3つのステップです。
ステップ1:【土台】営業利益を強くする
当たり前ですが、すべての源泉は「本業の儲け」です。
財務活動(お金のやりくり)がいくら上手くても、本業が赤字では会社は続きません。
まずは営業利益を黒字化し、伸ばし続けることが最優先です。
ステップ2:【揺れ止め】営業外コストを設計する
経常利益が外部環境でブレすぎないよう、「揺れ止め」の対策をします。
金利対策:
まずは「金利が1%上がったら、支払利息がいくら増えるか?(=金利感応度)」を把握します。
その上で、金利上昇に耐えられないなら、借入の「固定金利と変動金利の比率」を見直す、借換えを検討する、などの手を打ちます。
為替対策:
輸出入がある場合、「1円円高(円安)になったら、利益はいくら変動するか?」を把握します。
為替予約、価格転嫁ルールなど、「為替ヘッジの方針」を社内で文書化しておきましょう。
ステップ3:【見せ方】「調整後」の実力値で語る
これが銀行交渉や社内会議で絶大な効果を発揮します。
「経常利益は2,100万円です」と言うだけでなく、中身を説明するのです。
(例:銀行面談での説明)
「今期の経常利益は2,100万円と好調に見えますが、
このうち一時的な為替差益が2,000万円含まれています。
したがって、平時の実力(調整後経常利益)は100万円だと認識しており、
来期は本業の営業利益を改善することに集中します。」
このように「実力値」で語ることで、経営者が数字を正しく把握していると伝わり、銀行からの信頼が格段に上がります。
黙って決算書を提出しても、銀行員は「実力は100万円」とすぐに把握します。
「語るか語らないか」どちらが賢明な判断かは明白ではないでしょうか。
まとめ:利益は「通信簿」、EBITDAは「体力」、経常利益は「平時の総合点」
営業利益 = 本業の通信簿
EBITDA = 本当の体力(キャッシュを生む力)
経常利益 = 平時の総合点(本業+お金のやりくり)
これまでは、本業の「営業利益」さえ見ていれば、なんとかなる時代でした。
しかし、金利が動き出したこれからは、「お金のやりくり」の巧拙が、そのまま会社の利益を左右します。
銀行は、あなたの「営業利益」と「支払利息」を天秤にかけ、あなたの「経常利益」に注目しています。
まずは、今すぐ「借入明細」を開き、もし金利が1%上がったら年間の支払利息がいくら増えるか、計算用紙に書き出してみてください。
そこから、金利時代を生き抜く「耐性づくり」が始まります。
2025.11.11
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「黒字なのにお金がない」という経営者の悩みは、利益と現金の違いを理解していないことが原因です。
その解決策がEBITDA(営業利益+減価償却費)で、これは実際に生み出せるキャッシュの力を示す「体力ゲージ」です。
EBITDAは、本業の真の稼ぐ力を比較したり、銀行融資の可能性を判断したり、設備投資の判断基準として活用できます。
ただし、運転資金の膨張、設備投資、借金返済、税金など、EBITDAが高くても現金が減るワナがあるため、
EBITDAの把握とキャッシュフロー表の管理を組み合わせることが重要です。
第1回:総論
第2回:限界利益(受ける・やめるの判断軸)
第3回:粗利(儲かる仕組みの設計図)
第4回:営業利益(経営力の通信簿 )
第5回:中小企業の体力を測る「EBITDA」(会社の体力測定)
本文
財務が苦手な経営者や、これから勉強するという若手経営者に贈る
「やさしい財務入門 第5回」スタートです。
「決算は黒字。でも通帳はいつもギリギリ」
そんなモヤモヤを感じたことはありませんか?
その原因はシンプルで、
利益と現金(キャッシュ)は別物
だからです。
このズレを埋めて、「うちの会社は本当はどれくらいお金を生む力があるのか?」
を教えてくれるのが、今回の主役 EBITDA(イービットダー) です。
横文字アレルギー、出さないでくださいね。
今から、「EBITDA(イービットダー)」について、世界一やさしく解説します。
これがわかれば、「なぜ黒字なのにお金がない?」という最大の疑問が解け、
銀行との交渉や、次の設備投資の判断に自信が持てるようになります。
まず、大前提からいきます。
なぜ「利益」と「現金」はズレるのか?
まずは、「利益」と「現金」はまったくの別物だということを知ってください。
なぜなら、会計(決算書)には、「実際のお金の動きとは関係なく、数字上だけで処理する費用」が存在するからです。
その代表格であり、経営者が絶対に理解すべき項目が「減価償却費(げんかしょうきゃくひ)」です。
たとえば、500万円のトラックを現金で買っても、会計上は「5年に分けて毎年100万円ずつ費用」にします。
「5年で償却」とは、このことです。
そして、2年目・3年目は、現金は出ていないのに利益だけが100万円減る。
これが「利益とお金のズレ」の代表的な正体です。
1|EBITDAって、ざっくり何者なの?
難しく考えなくて大丈夫です。式はこれだけ。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
営業利益:本業のもうけ
減価償却費:実際にはお金が出ていない「分割経費」
※(厳密には支払利息や税金なども考慮しますが、まずはこれで十分です)
決算書に出ている「営業利益」に
「見せかけの費用」である減価償却費を足し戻して
「本業でどれだけキャッシュを生んでいるか?」
を見よう、というのが EBITDA です。
利益は「採点」 EBITDAは「体力」
と言われることもあります。
2 EBITDAをどう使う?(社長のための3つの使い方)
EBITDAは、ただ計算するだけでなく、「使う」ことで真価を発揮します。
使い方1:「本当の儲け」を比較する
同じ「営業利益500万円」の会社が2社あっても、中身がまったく違うことがあります。
A社(古い機械を使い続けている)
営業利益:500万円
減価償却費:200万円(もうあまり償却するものがない)
EBITDA(稼ぐ力):700万円
B社(積極的な投資・新しい機械を導入)
営業利益:500万円
減価償却費:1,500万円(最新設備をどんどん導入)
EBITDA(稼ぐ力):2,000万円
決算書上の営業利益は同じ500万円でも、B社の方がA社の約3倍もキャッシュを生み出す力が強いことがわかります。
使い方2:「借金」をどれだけ返せるか測る(銀行との交渉)
銀行がお金を貸すとき、何を見ていると思いますか?
もちろん「営業利益」も見ますが、それ以上に「EBITDA」を最重要視しています。
なぜなら、銀行への返済は「利益」ではなく「現金(キャッシュ)」で行われるからです。
銀行は、「この会社は、年間にどれだけ「返済の原資」となるキャッシュを生み出せるのか?」
(=EBITDAはいくらか?)を知りたいのです。
ここで使える簡単な指標があります。
有利子負債倍率 = 借入金の合計 ÷ EBITDA
これは、「今の借金を、何年分の「稼ぐ力」で返せるか?」を示す数字です。
一般に10倍以内、つまりは「10年間で返済できる」が目安などと言われます。
EBITDAを把握していれば、
「我が社のEBITDAは年間2,000万円あります。だから、あと5,000万円の融資を受けても、十分に返済可能です」
と、根拠のある交渉ができます。
使い方3:「次の設備投資」の判断に使う
「新しい機械を1,000万円で買いたいが、本当に大丈夫か?」 こんなときもEBITDAが役立ちます。
EBITDAは、あなたの会社が「どれくらいの投資規模に耐えられるか」を示す体力ゲージなのです。
その投資によってEBITDAがいくら増えるのかを計算し、
「何ヶ月で回収できるか?」という社内ルール(例:36ヶ月以内に回収)を決める判断基準になります。
3 【最重要】EBITDAが良くても「お金が残らない」4つのワナ
「よし、EBITDAはプラスだ!これで安心だ!」 と思った社長、まだ半分です。
EBITDAは「本業でキャッシュを稼ぐ力(体力)」を示しますが、
それ以外にもお金がなくなる「黒字倒産」のワナがあります。
EBITDAが高い = 必ずしもお金(現金)が増える、ではないのです。
1.ワナ1:運転資金の膨張(売掛金・在庫)
「売ったけど、未入金(売掛金)」が増える。(業績好調時に発生)
「仕入れたけど、未販売(在庫)」が増える。(業績好調・判断ミス時に発生)
これらはEBITDAの計算に含まれませんが、「現金が社外に出ていく」か、
会社の中で「寝ている」状態です。「在庫」は「罪庫」にもなるのです。
2.ワナ2:設備投資
EBITDAは投資「前」の体力です。トラックや機械を買えば、一括で現金が出ていきます。
3.ワナ3:借入元金の返済
これが最大のワナです。借金の「元本」の返済は、会計上「費用」になりません(P/Lに出てこない)。
EBITDAで稼いだキャッシュの中から、税引き後利益で返済する必要があります。
4.ワナ4:税金・賞与・生命保険資産計上分など
利益が出れば当然「法人税」を払います。賞与もまとまった現金支出です。これらもEBITDAから支払われます。
4 EBITDAを「生きた数字」にする実務5つ
1.まずは自社のEBITDAを出す
決算書の「営業利益」に「減価償却費」を足すだけ。
できれば直近12か月の推移も見てみましょう。
2.運転資金の動きをチェック
売掛・在庫・買掛の増減を月次で眺めるだけでも、
「どこにお金が詰まっているか」が見えてきます。
3.投資は「何か月で回収?」で判断
その投資で増える見込みの EBITDA で、
何か月で元が取れるかをざっくり計算するクセをつける。
4.返済計画は“体力”に合わせる
原則として、年間返済額 ≦ EBITDAをひとつの目安に。
これを超えるようなら返済期間や借入の組み方を要相談です。
5.キャッシュフロー表を週1で更新
「今から3か月先までの入出金予定」を表にして、週に1回、15分だけでも見直す。
会議では「前週からの差分」だけ確認するのが続けるコツです。
とはいえ、「週1点検」は、かなりハードルが高いと思われますので
「月1」もしくは前月や前年との「現金の増減」の確認からはじめてみましょう。
まとめ:EBITDA(体力)+キャッシュフロー表の二刀流へ
利益は採点
EBITDAは体力
現金は生存
黒字なのにお金が残らない本当の理由は、
「体力(EBITDA)」と「現金の出入り(運転資金・投資・返済・税金)」を
バラバラに見ているからです。
まずは今日、直近の決算書を開いて
営業利益+減価償却費=EBITDA を計算する
来週からの入出金を、簡単でもいいので書き出してみる
この小さな二歩が、「黒字なのにいつもヒヤヒヤ」から
「数字を見て、根拠をもって判断ができる社長」への第一歩になります。
2025.11.04
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「売上はあるのに、なぜか手元にお金が残らない」 そんな悩みを抱える経営者の方へ。
その原因は、本業の最終的な儲けを示す「営業利益」にあるかもしれません。
営業利益は、商品力(粗利)だけでなく、経費の使い方といった社長の「経営力」を映す「通信簿」です。
この数値が低いと、いくら稼いでも利益が残らない「メタボ体質」の会社になってしまいます。
改善のポイントは3つ。 ① 粗利を増やす ② 販管費(固定費)を減らす ③ お金の使い方の「質」を上げる
まずは自社の営業利益率を計算し、会社の健康状態を把握することから始めましょう。
売上を変えずに、利益を倍増させることも可能です。
本文
「今月も売上は目標達成!」「粗利も出てる!」
なのに、なぜか手元にお金が残らない。
社員の給料を払い、オフィスの家賃を払うと、自分の役員報酬すらキツい。
そんなモヤモヤを感じている経営者・次期経営者の方へ。
それはもしかすると、営業利益に原因があるかもしれません。
このシリーズでは、財務が苦手な方でも本質を理解できるよう、会計の基礎を順を追って解説しています。
第1回:総論
第2回:限界利益(受ける・やめるの判断軸)
第3回:粗利(儲かる仕組みの設計図)
第4回:営業利益(経営力の“通信簿” ←今回)
営業利益とは?「本業でいくら残ったか」を示す数字
営業利益とは、粗利から販管費を引いた残りのこと
営業利益 = 粗利(売上 − 原価) − 販管費(人件費・家賃・広告など)
「粗利」は商品やサービスの強さ
その粗利から、会社を回すための費用を全部払っても黒字が残るか?
これを示すのが営業利益です。
販管費の主な内訳は以下のようなもの:
給料や社会保険料(役員報酬・社員給与)
オフィス賃料、光熱費、通信費
広告宣伝費、交通費、外注費
つまり営業利益は、本業で稼いだ利益の「最終着地」
ここが赤字なら、売上や粗利がいくらあっても、会社としては「本業で赤字」ということです。
営業利益は「社長の通信簿」
営業利益が注目されるのは、その中身が「社長の意思決定の結果」だからです
人を何人雇うか
どこにどんなオフィスを借りるか
どれだけ広告を打つか
社長自身の給料をいくらにするか
これらの支出=販管費は、すべて社長がコントロールしているものです。
だから営業利益は、「商品力」ではなく、社長の「経営力」を表すスコアだと言われます。
粗利が出ていても、営業利益が出ていなければ、「稼ぐ力はあるが使いすぎている」=メタボ体質
数字に現れるのは、社長の「経営設計図の良し悪し」です。
あなたの会社の健康状態は?営業利益「率」でチェック
普段私は「率」より「額」を主に重視しますが
同業他社等と比較し自社のポジションを確認したいのならば「率」が便利です。
営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上 × 100
これは、売上のうち何%が「本業のもうけ」として残っているかを示します。
【業種別の目安】
業種
営業利益率の平均
卸売業
約1〜3%
小売業
約2〜5%
製造業
約3〜7%
建設業
約4〜8%
サービス業など
約5〜10%以上
たとえば、売上1,000万円で営業利益が10万円なら、営業利益率は1%
これは、少しのトラブルで一気に赤字に転落する脆弱な体質です。
まずは営業利益率5%以上、目標としては10%以上を目指したいところです。
営業利益を高めるための「3つの社長の仕事」
営業利益を増やすには、たった3つの方法しかありません。
① 粗利を増やす(=稼ぐ力を強くする)
単価を上げる(値上げ・高付加価値化)
原価を下げる(仕入れ見直し・ロス削減)
儲かる商品を増やす(商品構成の見直し)
まずは「粗利率の改善」が基本。ここが営業利益の「源泉」になります。
② 販管費を軽くする(=固定費の見直し)
粗利があっても、使いすぎれば意味がありません。
ただし、闇雲なコストカットは逆効果なので、まずは販管費を「浪費」と「投資」に分けることが大事です。
浪費の例:
使っていないサブスクリプション
効果測定していない広告
過剰なオフィス・交際費
生命保険料
投資の例:
採用費(優秀な人材)
教育研修費(社員育成)
効果の高い広告費
浪費は削る。投資は生かす。このバランスが営業利益のカギを握ります。
③ 費用の「質」を上げる(=お金の使い方を見直す)
たとえば広告なら、
年間、何人の人が広告を見て、来店や購入しているかを把握していますか?
複数の広告手段を使っている場合、「手段ごと」の来客数などを把握していますか?
人件費なら、「採用にかかる費用」や「戦力化までの費用」を計算していますか?
お金を「使う」のではなく、「活かす」視点を持ちましょう。
今の1万円が、将来1万円以上の粗利を生むか? それが判断基準です。
売上を変えずに営業利益を2倍にしてみよう
■売上:5,000万円
■粗利率:30% → 粗利=1,500万円
■販管費:1,200万円 → 営業利益=300万円(6%)
結構、優秀な会社です。この会社が
① 粗利率を+5pt(30%→35%)
② 販管費を▲100万円
にすると
■粗利:1,750万円(5,000万円×35%=1,750万円 粗利5%増)
■販管費:1,100万円(▲100万円)
1,750万円―1,100万円
→ 営業利益:650万円(13%)
売上は1円も増えていないのに、営業利益は2倍以上になりました!
これが社長の「設計力」です。
「こんなの机上の空論」と失笑された方、「その通り」です。
ただの「計算式」ですから。
ただし、一つだけ真実があります。
「空論」に近づこうとした者だけが「目指す姿」になる権利を得ます。
よく聞く『そうは言っても、うちの会社では無理だ』と感じるかもしれません。
しかし、諦める前に、まずは『粗利率を1%だけ上げる』『販管費を月5万円だけ見直す』
といった小さな一歩から始めてみませんか?
「粗利1%増も無理」ならば、強い会社・潰れにくい会社へのチャレンジは、ここでやめましょう。
「チャレンジする」と考えたみなさん!
「粗利率を2%」「販管費を30万円」これだけでも、社長の「通信簿」は大きく変わります。
チャレンジするのに、お金もかかりませんし、失うこともありません。
まとめ|営業利益は「会社の体力」を示すスコア
粗利は「商品力」
営業利益は「経営力」
売上や粗利だけではわからない、「会社の本当の健康状態」を映すのが営業利益です。
ぜひこの機会に、自社の営業利益と営業利益率をチェックしてみてください。
「利益は出てる?」ではなく、「ちゃんと体力はある?」という視点で、事業の設計を見直していきましょう。
2025.10.30
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
売上が伸びているのに利益が残らない原因は、「売上」だけを見て「粗利(あらり)」を管理していないからです。
粗利とは「売上高から商品の仕入れや製造にかかった原価を引いたもの」で、会社の儲けの源泉です。
家賃や人件費といった経費は、すべてこの粗利から支払われます。
そのため、粗利が不足すれば会社は絶対に儲かりません。
まず、自社の「粗利率(粗利 ÷ 売上)」を把握し、業界平均と比べてみましょう。
これが自社の「儲ける力」を知る第一歩です。
その上で、利益を増やすには以下の3つの視点が重要です。
安易な値引きはしない:たった数パーセントの値引きが、利益を大幅に削ってしまいます。
「率」と「回転」で考える:粗利率が低くても、たくさん売れる商品の方が会社に貢献していることがあります。
粗利率自体を改善する:「単価アップ」「原価ダウン」「儲かる商品の販売比率アップ」は、無理に売上を伸ばすより効果的です。
ドンブリ勘定から抜け出すには、経営者が「粗利」に注目し、儲かる仕組みを設計することが大切です。
本文
売上は伸びているのに、口座にお金が残らない。
原因は「売上」だけを見て「粗利(売上総利益)」を管理していないことにあります。
粗利は販管費と利益の「源泉」です。ここが不足すれば、会社は絶対に儲かりません。
今回は、あなたの会社の「儲かる力」の設計図の書き方の話です。
財務諸表(P/L)が読めなくても大丈夫。
この記事を読み終える頃には、「ドンブリ勘定」から抜け出すヒントが必ず見つかります。
1. ズバリ、「粗利」とは「儲けの設計図」
まず、粗利とは何か。
正式名称は「売上総利益」と言います。
「利益を残す」という観点から見れば、最も重要な利益です。
計算式はシンプル
粗利(売上総利益) = 売上高 − 売上原価
「売上原価」とは、「その商品を売るために、「直接かかったコスト」のこと。
業種ごとに少し中身が違います。
小売業・卸売業(モノを仕入れて売る)
「売上原価」= 商品の仕入れ代
製造業(モノを作って売る)
「売上原価」= 材料費 + 工場でかかったお金(製造ラインの人の給料、工場の電気代、機械の減価償却費など)
サービス業(技術・労働力を売る)
「売上原価」= 外注費 や プロジェクトに直接関わった人(エンジニアやデザイナー)の人件費 など
※サービス業は会社によって定義が異なります。
なぜ、この「粗利」が重要なのでしょうか?
それは、粗利こそが「すべての利益の源泉」であり、
会社が「販管費」を支払うための唯一の原資だからです。
「販管費」とは、家賃、給料、役員報酬、広告宣伝費、交通費など、
「商品を売るために「間接的」にかかった費用」のことです。
(会社の儲けの構造イメージ)
売上 1,000万円
↓
売上原価 600万円(仕入や製造コスト)
↓
粗利 400万円 ← ココが会社の「支払いの原資」
↓
販管費 300万円(家賃・給料・広告費など)
↓
営業利益 100万円(本業での最終的な儲け)
上記の場合、粗利が300万円以下なら赤字。
それ以上なら、黒字。
つまり、粗利が足りなければ、会社は絶対に儲からないのです。
2. 要注意!「限界利益」と「粗利」の違い
ここで、多くの経営者が混乱するポイントを整理します。
前回学んだ「限界利益」と、今回学んでいる「粗利」。
どちらも大事ですが、使う目的がまったく違います。
(例)あなたは、パン屋さんです
限界利益(=現場の「GO/STOP」判断)
目的:この「特注パン100個」の注文、受ける?やめる?
計算:(パンの売値)−(変動費)
変動費:小麦粉代、卵代、パンを入れる袋代など(=売れたら増えるお金)
使い方:限界利益がプラスなら、固定費(家賃など)の回収に貢献するから「受ける」。マイナス(赤字)なら「断る」。
粗利(=経営の「儲かる仕組み」診断)
目的:ウチのパン屋、そもそもビジネスとして儲かる設計になってる?
計算:(パン屋全体の売上)−(売上原価)
売上原価:変動費(小麦粉・卵・袋)+ 製造にかかる固定費(パン職人の給料、工場の減価償却費、工場の家賃など)
使い方:粗利がカツカツなら、「パンの値段が安すぎる」か「原価が高すぎる」ということ。ビジネスモデル自体の見直しが必要
一番の違いは、「粗利」を計算するときの「売上原価」には、
固定費の一部(製造にかかる人件費や家賃など)が含まれる点です。
「限界利益」は、現場の営業マンが「この案件、受ける?」を判断するための「戦闘用」の数字。
「粗利」は、経営者が「ウチの会社、儲かる体質?」を診断するための「戦略用」の数字。
まずはこの違いをしっかり押さえてください。
3. 自社の「粗利率」を知らないのは「危険信号」
粗利は「金額」も大事ですが、経営者はそれ以上に「率」に注目しなければなりません。
粗利率(売上総利益率) = 粗利 ÷ 売上高 × 100
粗利率は、あなたの会社の「商品力」「価格設定」「仕入れ交渉力」がすべて詰まった「通知表」です。
では、自社の粗利率は高いのか、低いのか。
ここで、業種別の「粗利率」の平均目安を見てみましょう。(※中小企業実態基本調査 令和4年度実績より)
業種
平均粗利率
卸売業
約 15.1%
製造業
約 20.7%
運輸業
約 23.4%
小売業
約 30.4%
不動産業
約 46.3%
情報通信業
約 47.5%
専門サービス業
約 56.8%
宿泊業・飲食業
約 63.3%
いかがでしょうか?
あなたの会社の決算書と比べてみてください。
もし自社が小売業なのに粗利率が20%しかなければ、同業他社より「安く売りすぎている」か「高く仕入れすぎている」可能性が高い、という危険信号です。
4. 経営者が知るべき「粗利」3つの実務テクニック
粗利率の重要性がわかったら、次はこの数字を使って経営を「見える化」します。
テクニック1:「値引き」は「悪魔のささやき」
「売上がほしい。5%くらいなら」と安易な値引きをしていませんか?
その5%が、利益にどれだけインパクトを与えるか計算してみます。
「値引きの本当の恐ろしさ」がわかる魔法の計算式があります。
粗利の減少率 ≒ 値引き率 ÷ 粗利率
(例)あなたの会社の商品が、粗利率40%だったとします
この商品を5%値引きしたら、粗利(儲け)は何%減るでしょうか?
5%(値引き率) ÷ 40%(粗利率) = 12.5%
驚くことに、たった5%の値引きが、会社の「粗利」を12.5%も吹き飛ばしてしまうのです。
「5%値引き」は「ちょっと」ではなく、粗利を1/8消す行為だと知ってください。
値引くなら、その分の数量を「おまけ」するや、
前金入金、入金サイトの前倒しなどで取り返すのが鉄則です。
テクニック2:「率」と「回転」の掛け算で見る
粗利率が高い商品=良い商品、と決めつけてはいけません。
大事なのは「粗利率」と「販売数(回転)」をセットで見ることです。
商品A(高利益)
商品B(薄利多売)
単価
10,000円
5,000円
原価
6,000円
4,000円
粗利率
40%
20%
月の販売数(回転)
10個
100個
月間粗利額
40,000円
100,000円
一見、商品Aの方が粗利率が高くて優秀そうですが、
数が売れる商品Bの方が、会社に2.5倍の粗利(儲け)をもたらしています。
「粗利率は低くても、数が回る」そんな商品を見つけるのが、経営のツボです。
テクニック3:「商品×顧客」で“儲けの地図”を描く
「どの商品が儲かっているか」だけでなく、「どのお客様が儲けさせてくれているか」を把握していますか?
これを「見える化」するのが「粗利マトリクス」です。
顧客\商品
商品A(高単価)
商品B(中単価)
商品C(低単価)
顧客X
▲(赤字)
◯(そこそこ)
◎(主力)
顧客Y
◎(高粗利)
△(低回転)
▲(値引き多)
顧客Z
◯(そこそこ)
◎(主力)
◯(そこそこ)
こういう表をつくることで、「売上は大きいけど、実は赤字の顧客Yには商品Cを売るのをやめよう」とか、
「優良顧客の顧客Zには、新商品の提案を強化しよう」といった、感覚ではない「戦略」が立てられるようになります。
5. 粗利を増やす3つの処方箋
「売上を上げろ!」と号令をかける前に、社長がやるべきは「粗利率の改善」です。
売上はそのままでも、設計次第で利益は増えます。
(現状)売上5,000万円、粗利率30% → 粗利1,500万円
ここから、3つの処方箋を実行します。
価格を3%だけ是正する(単価アップ)「値上げは怖い」と思わず、チラシや見積もりの“端数”を整えるだけでも効果があります。→ これで粗利率が +3pt(33%に)
原価を2%だけ下げる(原価ダウン)仕入先の見直し、送料のまとめ交渉、決済手数料の区分け見直しなどで達成します。→ これで粗利率がさらに +2pt(35%に)
「儲かる商品の比率を増やす」(構成見直し)テクニック3の地図を見て、粗利率の高い商品を優先的に提案するよう営業トークを変えます。→ これで粗利率がさらに +2pt(37%に)
(結果)
粗利率 30% → 37%(+7pt改善)
→ 同じ売上5,000万円でも、粗利は1,850万円(+350万円)
粗利を350万円増やすために必要な売上は
350万円 ÷ 0.3 = 1,166万7千円(約1,167万円)
「粗利率の設計見直し」と「売上アップ」
どちらが現実的か、ここが「社長の決断」となります。
まとめ:社長の仕事は「粗利」を見ること
「売上」だけを追いかける経営は、アクセルだけを踏んで、燃料計を見ていない車と同じです。
いつガス欠(=資金ショート)になってもおかしくありません。
財務が苦手な経営者こそ、「売上」よりも「粗利(売上総利益)」の数字に注目してください。
まず、自社の決算書で「粗利額」と「粗利率」を確認する
同業他社の平均と比べて、自社の「儲ける力」がどの位置にあるか知る
「値引きの恐ろしさ」「率×回転」「商品×顧客」で、儲けの地図を確認
「単価」「原価」「商品構成」の3つにメスを入れ、粗利率を改善する
これが、「ドンブリ勘定」から抜け出し、「儲かる仕組み」を作るための、経営者としての一番確実な第一歩です。
2025.10.29
忙しいあなたへ「1分で読める」AI要約
経営判断を「勘」や「売上優先」で行うと、知らないうちに赤字の仕事を受けているかもしれません。
そこで役立つのが、会社の「かせぎ」を示す限界利益(=売上-変動費)です。
これを使えば、「どこまで値引きできるか」という最低ラインが明確になり、
現場での価格交渉がスムーズになります。
さらに、月の固定費を稼ぐために必要な売上高である「損益分岐点」を計算すれば、
月々の最低目標がクリアになります。
案件を受ける際は、以下のの3ステップで判断しましょう。
「①限界利益はプラスか」「②損益分岐点の達成に貢献するか」「③資金繰りは問題ないか」
このフレームワークを使えば、日々の「受けるか、やめるか」の判断を、
自信を持って迅速に行えるようになります。
本文
「財務」で勝ち残りたい社長のための「限界利益」超入門
「この案件、受けるべきか…?」
「値引きの相談が来たけど、どこまで下げて大丈夫かね〜?」
経営者や次期経営者にとって、こういう「その場の判断」は毎日のようにやってくる。
でも、その判断を「勘」と「売上優先」で動いていませんか?
実はそれ、売れば売るほど赤字の仕事を受けているかもしれませんよ。
1.30秒でわかる 「かせぎ」の正体(=限界利益)
まず、今回覚えてほしいのはたった一つの言葉
限界利益=売上 − 変動費
「変動費」ってなにかというと、「売れたら増える費用」のこと
変動費(売れたら増える)
材料費、仕入代
外注費(作れば払う)
決済手数料(カードなど)
送料、梱包費
固定費(売れても変わらない)
給料、オフィス家賃
広告(定額)、リース代
管理系の人件費
限界利益は、「会社にどれだけ“かせぎ”が残ったか」を表します
【3行で計算】
もし1個1,000円の商品を、変動費600円で作って500個売ったら?
限界利益=(1,000−600)×500=200,000円
この20万円が、家賃・人件費などの「固定費」を支える「かせぎ」
2. 値引きOKの「ゼロ点」って、どこ?
「どこまでなら値引きして大丈夫か?」
これを教えてくれるのも、限界利益
【基本ルール】
ゼロ点=変動費
変動費600円の商品なら、600円で売ったら限界利益0円
それ以下の価格は、売れば売るほど赤字
安全マージンを足して「最低ライン」を決めよう(実務編)
送料の上振れ、手数料の見落としなどのいわゆる「諸経費」
600円 × 1.03(安全マージン3%)= 618円
この「618円」が、営業が死守するラインとなる
※マージンをどれくらいに設定するかは、個社判断
ここまでは、言ってみれば営業などの現場の仕事です。
この「618円」が現場で承知されれば
現場レベルで「値引き交渉」に対応ができます。
3. その仕事、受けていい?「損益分岐点」で見える化
売って残る「かせぎ」が限界利益なら
それで「月の固定費をまかなえるか?」を見るのが「損益分岐点」
通常、社員は自社の「固定費」がどれくらいなのか知らない
つまり、ここから先は「経営層」が判断を下すこととなります。
【計算】
損益分岐点=固定費 ÷ 限界利益率
限界利益率=(単価−変動費)÷ 単価
→ 例:(1,000−600)÷ 1,000=40%
固定費が月200万円ならば、200万円 ÷ 0.4=500万円
月500万円売れば、トントンということ。
まず500万円を超えるのが最低目標となります。
ここを超えると利益が増えていくことになります。
4. 【受注判定フロー】この3ステップで判断!
ステップ1:限界利益はプラスか?
「ゼロ点以下なら原則NG」それでも売るべきかどうかは
戦略的に考えましょう
ステップ2:損益分岐点を超える助けになるか?
今月あと少しで届くなら、受ける価値アリ
分岐点500万円、現在480万円、今回の取引の限界利益20万円
このような場合は、前向きに受注を検討しましょう
ステップ3:キャッシュは詰まらないか?
入金が遅くない?前金はもらえないか?
ここが一番重要です
限界利益がプラスでも、「入金が半年後」「前金ゼロ」といった条件だとどうでしょう?
先に変動費(仕入代)や固定費(給料)の支払いが来てしまい、資金繰りが詰まります(黒字倒産)
限界利益が薄い(例:5%)のに、大量の受注をすると、売れば売るほど手元の現金が減っていく事態にもなります
この3つがすべてOKなら、「GOサイン」を出せる仕事と言えます。
1つでも怪しい、もしくは「今回だけは」などの戦略的判断や
「支払い条件の交渉」などは、まさに「社長の腕の見せどころ」となります。
5.今日からやってみること
1.変動費の定義を社内で統一する
→ 材料費?外注費?まずは見える化
2.代表商品の「限界利益」「ゼロ点」を出してみる
→ 価格交渉が楽になり、判断基準が明確になる
3.損益分岐点(=最低売上目標)を1回だけでいいから計算する
→ 今月の「目安」が見えてくる。通常、固定費は大きく変わらないはず
6. よくある“落とし穴”と回避策
落とし穴:売上至上主義(限界利益が薄い大量受注で資金ショート)回避:限界利益率の下限を設定(例:20%未満の新規は要決裁など)
落とし穴:最低売価の未共有(現場が気づかず値引き)回避:商品別・顧客別の最低売価一覧を営業に配布
落とし穴:利益OKでもキャッシュNG(入金遅延)回避:着手金・中間金・サイト短縮を標準の提案項目に盛り込む
7. 30秒テンプレ(そのまま使える!)
限界利益:(単価_____ − 変動費_____) × 数量_____ = _____円
最低売価:変動費_____ × 1.03〜1.05 = _____円
分岐点:固定費_____ ÷ 限界利益率_____ = 売上_____円
まとめ
限界利益で「案件のかせぎ」を即確認
最低売価で「値引きのデッドライン」を全社共有
損益分岐点で「今月のクリアライン(最低目標売上高)」を把握
この3点セットで、「受ける・値引く・やめる」を1分で判断できます。
まずは主力商品の変動費→最低売価→限界利益率を今日中に書き出して、
営業全員に配布しましょう。明日から、判断の質が変わります。
ちょっとひと言
「数字は苦手でね」という経営者ほど、限界利益を知ると行動が変わってきます。
損益分岐点を知ると、会社にお金が貯まってきます。
「なんだこれ、赤字だったのか!」って気づいたらもう前進
頑張りすぎず、ひとつずつ、「数字と仲よく」していきましょう。
2025.10.27
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「利益率が5%に落ちた」——この言葉、本当に危険なサインでしょうか?
実は「利益」には種類があり、どの利益を見ているかで意味は全く異なります。
この記事は、複雑な利益の種類を「現役経営者」の視点から超実践的に解説します。
「受注や値引き」の判断には限界利益、「会社の体力診断」には営業利益、
「資金力」を測るにはEBITDAといったように、どの利益をいつ使うべきかが一目瞭然。
さらに、「値引き上限の決め方」や「損益分岐点」の計算例も具体的で、すぐに自社で活用できます。
数字が苦手な経営者でも感覚的に理解でき、
ドンブリ勘定から脱却して「儲かる会社」へ体質改善するための、最初の一歩となる内容です。
本文
テレビから、こんな話が聞こえてきた。
「鳥インフルエンザにより鶏が大量に殺処分。卵の価格が高騰か」
以前は「物価の優等生」といわれた卵ですが
ここ数年は、スーパーで見ても、簡単に手が出ないほどの価格になっている。
卵をよく使う、とある飲食店に取材で訪れ、話を聞いていたのだが
その飲食店の店主さんが「卵の高騰は痛い。以前は利益率10%だったのが
今や5%しかない」と話していた。
それを聞いて、私の頭の中は「ん???」
「その利益率、どの利益率?」となったわけです。
もし、「粗利益率」が5~10%なら、普通の飲食店なら、とっくに閉店しているはずだ。
「経常利益率」がその数値なら、中小企業なら、十分優秀な会社と言えるし
ましてや、税引き後利益が、その数値なら「超優良企業」と言える。
このように会社を経営していく上で目にする「利益」や「利益率」と言われる数値ですが
数種類、存在しています。そしてその「用途」も様々。
そこで、本日から数回に分けて、この「利益」と言われるものを
会社経営をする上で、必要と思われる順番に、その「意味」や「用途」を
できるだけ専門用語を使わずに、記事にしていこうと思います。
「無資格・無免許・現役の経営者」の私だからこその感覚を生かしていきますので
「有資格・有免許」の方から見ると「不正確」なところはありますが
実際の経営の現場で、「そのまま」そして「感覚的に」使えるような記事にしたいと思います。
では、本日は「総論」です。
「わかっている」という方は、斜め読みでかまいません。
忙しいのに儲からない。値引きが常態化する。どこから手を付けるべきか。
その混乱は「利益の種類」と「使いどころ」が曖昧なことから生まれます。
まずは、判断の拠り所になる「利益の全体図」を描きます。
1. 5分でつかむ「利益の系譜」
売上 − 変動費 = 限界利益
限界利益=「売上から、売るたびに増える費用を引いた残りの利益」のこと
この残りで固定費(家賃や基本人件費)をまかなって、残った分が利益になります
使いどころ:受注可否・値引き・撤退の即断
注:変動費=売上に比例して増えるコスト(材料費、出来高外注、配送、決済手数料など)
売上 − 売上原価 = 粗利(売上総利益)
売上原価の中身
小売・卸:期首商品棚卸高+当期仕入−期末商品棚卸高(+仕入運賃など付随費用)
製造:期首製品棚卸高+当期製造原価−期末製品棚卸高
使いどころ:商品・顧客選び、在庫・仕入の計画策定
注:売上原価=「売れた分」に対応する仕入・製造コスト
粗利 − 販管費 = 営業利益
販管費=販売管理費=「販売するために使った費用(販売員の給与・広告費など)
「会社を管理・運営するために使った費用「役員給与・減価償却費など」
使いどころ:固定費(人・広告・オフィス・サブスク)の重さが戦略に合っているかの体質診断
営業利益 + 減価償却 = EBITDA(イービットディーエー イービッダー)
EBITDA=会社が「本業で生み出す現金の力」 現金そのものではないが、それに近いもの
使いどころ:返済余力・投資余力=キャッシュ創出力の目安
注:減価償却=設備の分割費用 実際に現金は出ていない「会計上の費用」
営業利益 ± 営業外収支 = 経常利益
使いどころ:金利・為替等を含む「平時の稼ぐ力」
特別損益調整 → 税引前利益 → 当期純利益
使いどころ:内部留保・配当・次の投資配分の源泉
一言でまとめると:意思決定は限界利益 体質は営業利益 資金はEBITDA
2. どの利益を「いつ」使うのか(30秒フロー)
受注・値引き:限界利益がプラスか?(マイナスなら単価交渉・撤退を検討)
商品ラインナップ:粗利率 × 回転(低粗利でも高速回転は武器)
固定費の重さ:営業利益率で体質を点検(重すぎる固定費は要検討)
資金余力:EBITDAで返済余力・投資の天井を把握(どこまで借りられる・攻められるか)
3. 数字を「使える化」するツール
限界利益表(商品別・ 顧客別)を作成・更新
営業・購買など社内全体で同じ表を見る(コスト意識の向上)
損益分岐点を全員で共有
「損益分岐点」とは「 利益がちょうど0円になるところ」
つまり、±0になる価格のこと
損益分岐点売上:固定費÷限界利益率(売上ベース・売上個数ベースの2種類)
粗利マトリクス(粗利率 × 回転)
在庫・仕入・販促の優先順位と直結
「@あたりの粗利率が小さいが販売個数や回転がよい商品」
「販売個数や回転率は悪いが@あたりの粗利率がよい商品」
どちらに注力し営業をするのかの経営判断ができる
簡易EBITDA表
返済予定と比べる。
投資余力=EBITDA − 年間返済
お金のブロックパズル
会社のお金をたった1枚の紙で直観的に誰もが理解できるようになるツール
経営判断の際に用いるのは無論、会社全体の「共通言語」として使用することにより
経営層から現場まで、意思決定に際し、ブレが少なくなる
4. ミニ例:値引き上限を「秒」で決める
単価1,000円、変動費600円 → 限界利益400円(限界利益率40%)
固定費が月200万円なら、損益分岐点売上高:200万円÷40%=500万円
値引き相談が来たら:
限界利益ゼロの単価=変動費=600円
実務は配送・決済手数料で変動費が膨らむため、安全マージンを引いた「最低販売価格」を部門で統一
計算例
変動費600円+配送/決済等50円=実務変動費650円 マージン20円 → 最低販売価格=670円(ここを絶対に割らない)
ちなみに「損益分岐点売上の500万円を超えて売上が立った場合
500万円を超えた売上のうち、変動費を差し引いた部分が、そのまま利益になる
ポイント:限界利益が見えていれば、感情ではなく数字で「線」が引けます。
5. よくある誤解と処方箋
誤解:粗利が高ければ正義
処方箋:粗利率だけでなく「回転」と「在庫滞留」を同時に見る
誤解:売上のために値引きは仕方ない
処方箋:限界利益のゼロ点を可視化し、超えてはいけない線を現場に渡す
誤解:黒字なら安心
処方箋:EBITDAと運転資金(売掛・在庫・買掛)を見て、キャッシュで判断
黒字は「利益」の話であり、「現金」の話ではないことを理解する
6. 今日からのチェックリスト
自社の「変動費」の定義を決める
上位3商品・3顧客の限界利益率を算出(毎月更新)
固定費と損益分岐点売上を全社共有(壁に貼る)
経営会議で「EBITDAと年間返済予定」を同じ紙で確認
次回から各論で「限界利益 → 粗利 → 営業利益 → EBITDA → 経常・純利益」を深掘りします。
まずは「利益の全体図」を作成し、会社のお金の流れを全社員で共有。
コスト意識が醸成され、利益を生みやすい体質へと変えましょう。
何故かアップしたいイラストがアップできません。
2025.10.22
1分で読めるAI要約文
現代は情報が溢れ、常識が日々変わる乱世のような時代です。
そんな中で経営者や教育者に必要なのは、「質問力」と「発問力」です。
これらは本質を見抜き、創造的な価値を生み、組織や人と深くつながる力を意味します。
具体的には、本質的な問いを立てることで情報の真偽を見極め、
新たなアイデアを掘り起こし、質問を通して信頼関係を築くことが求められます。
日々の習慣として、沈黙を恐れず問いを多角的に設計し記録し、
前置きで相手の思考を促すことが効果的です。
問いを持ち続けることで、混迷の時代をたくましく生き抜く力となります。
本文
情報が洪水のように押し寄せ、昨日の常識が今日に覆る時代。
経営者や教育者に必要なのは、正解を急ぐ姿勢ではなく、
物事の本質を捉え進む道を切り拓く「問いの力」です。
本稿では、ビジネスの成果の最適化に効く「質問力」と、
学習の認知プロセスを整える「発問力」を軸に、
なぜ今それが必須なのか、どう鍛え、どう使うかを具体的に示します。
なお、本稿では「質問力」と「発問力」を総称して「問いの力」とします。
まずはその定義ですが(読み飛ばしていただいて問題ありません)
質問力: 相手や状況から本質的な情報・洞察・合意を引き出すために、
適切な問いを設計し、投げかけ、聞き取り、
次に繋げる総合的なコミュニケーション能力(主にビジネスや対人場面)
発問力: 学習者の思考を促し、理解を深めるために、
学習目標に沿って問いを設計・提示する教育的な能力(主に授業・指導場面)
共通点は「目的に合う問いを設計して、思考を動かし、行動や理解に変化を生むこと」
相違点は、質問力が広く実務・対話での成果最適化、発問力が学習者の認知プロセス最適化に重心がある点
と整理できます(筆者の解釈を含む)
では、なぜ、経営者や教育者と言われる人たちに、この能力やスキルが必要なのでしょうか?
これには、現代の私たちを取り巻く環境や未来の社会で生き抜いていくための術が、
隠されているためだと、私は考えます。
1. 思考の解像度を上げ、本質を見抜く力
私たちは日々、膨大な情報に晒されています。
その中には真実もあれば、誤情報や意図が隠された情報も紛れ込んでいます。
「これは本当に正しいのか?」
「なぜ、このような情報が今出てくるのか?」
「その根拠は何か?」
こうした問いを立てることで、情報の渦に飲み込まれることなく、
物事の表面だけをなぞるのでなく、その裏側にある本質や構造を見抜くことができます。
経営判断においても、表面的な数字や意見だけでなく、
その奥にある背景や真の課題に質問のメスを入れることで、思考の解像度が格段に上がります。
2. 常識を打ち破り、新たな価値を創造する力
イノベーションは、いつの時代も「当たり前」を疑う問いから生まれます
「なぜ、こうでなければならないのか?」
「もし、〇〇がなかったらどうなるだろう?」
「もっと良い方法はないだろうか?」
例えば、Appleのスティーブ・ジョブズは
『なぜ電話は、こうでなければならないのか?』と問い続け、
その結果、iPhoneが生まれたと言われています。
このように、こうした問いは、凝り固まった常識や固定観念に風穴を開け、
誰も思いつかなかったようなアイデアや、新しい価値を創造するきっかけとなります。
変化の激しい時代において、現状維持は緩やかな衰退を意味します。
問い続けることこそが、組織の停滞を打破する原動力となるのです。
3. 人と深くつながり、組織を自律させる力
良い質問は、相手への関心の現れです。
自分の考えを一方的に話すのではなく、相手に質問を投げかけ、その答えに真摯に耳を傾ける。
この対話のプロセスを通じて、私たちは他者を深く理解し、共感し、強固な信頼関係を築くことができます。
特に経営者や管理職が「質問を投げかける」ことは、
スタッフに考えさせ、自ら答えを導き出す「癖」をつけさせるためにも非常に大切です。
多様な価値観を持つ人々が共存する現代社会において、
この対話を通じた相互理解の力は、個人としても組織としても、不可欠なスキルと言えるでしょう。
例えば、 Googleでは、「何がチームの生産性を最も高めるのか?」という問いに対し、
「プロジェクト・アリストテレス」という大規模な社内研究を行い、
その結果は、能力やIQの高い人間を集めるよりも、
「心理的安全性の高い組織」が最も生産性が高いという結果となったそうです。
そして、この「心理的安全性」を高める手段こそが「質問力」なのです。
質問力を磨くための「3つの習慣」と「考えやすい質問の仕方」
では、この「質問力」をどうやって磨けば良いのでしょうか?
ここでは、テクニックではなく「基本姿勢」を紹介します。
習慣① 沈黙を怖がらない
すぐに答えが返ってこない時に起こる「沈黙」
しかし、この「沈黙の数秒」が、思考の深さを生み出します。
「真剣に考えているんだな」という捉え方をしましょう。
習慣② 問いを「誰に」向けるかを意識する
相手、自分、顧客、社会
問いの矢印を変えるだけで、視点が広がり、多角的な思考が可能になります。
習慣③ 問いを書き留めるノートを持つ
日常の中で浮かんだ「なぜ?」「どうすれば?」をメモする習慣をつけましょう。
それが、あなたの思考を深める「元帳」になります。
スムーズに答えを引き出す「前置き」の技術
「もっと考えて行動してほしい」という思いから発した質問でも、
伝え方を間違えると、相手は思考を停止したり、的外れな答えを返したり、
さらには不満を感じることもあります。
相手が考えやすい質問の仕方を意識しましょう。
ポイントは、「前置きをしてから質問する」ことです
NG例:社長がいきなり「佐藤営業部長、先月の売上、前年対比はどうでした?」
OK例: 「1ヶ月前の会議では、『今月こそ売上目標をクリアしよう!』と皆で話し合いましたよね。
その結果を今から部長の佐藤さんに聞きたいと思います。佐藤さん、どうでしたか?」
このように、質問の「意図」や「背景」を前置きとして伝えることで、
相手は、対処の方法など考える準備ができ、スムーズな対話へとつながります。
これは、複数人に意見を求める際にも同様に有効です。
ちょっとしたゆとりがコミュニケーションを円滑にしてくれるのです。
まとめ:問いを持つ者こそが未来を創る
答えのない時代だからこそ、問い続けることそのものに価値があります。
経営も、人材育成も、そして人生も「正解」ではなく「問い」が未来を拓く時代です。
さあ、あなたも「問いの力」という最強の武器を手に、この混沌とした現代という名の乱世を、たくましく生き抜いていきませんか?
乱世を生き抜く者とは、答えを知る人ではありません。
問いを持ち続ける人こそが、未来を創る人になれるのです。
2025.10.16
忙しいあなたへ「1分で読めるAI要約」
「黒字なのにお金が足りない」という状況は、現金管理の不足が原因で起こります。
会社が倒産する直接の理由は「利益不足」ではなく「現金不足」。
利益は未来の入金を含む「意見」ですが、現金は誰の目にも明らかな「事実」であり、
給与や家賃など支払いには現金のみが使えます。
そこで、最低限確保すべき現金ラインを設定して、
それを守るための借入や節税、投資などを判断しましょう。
最初にチェックすべきは貸借対照表(B/S)の現金残高であり、
今後の資金繰り表を作成・更新することで、将来の資金不足を防げます。
結局、「Cash is King」という言葉は知っているだけでは意味がなく、
実際に現金を「王様」としてあらゆる経営判断を下すことこそが、
会社の未来を支える最短距離なのです。
本文
先日、とある経営者と話をした際に、こんな質問をされました。
「この投資をしても大丈夫なのか判断がつかない」
その質問に対して「考え方」をお伝えしたのですが
その重要性が腹落ちしていない様子でした。
「このままでは、まずいことになるかもしれない」
そう感じたのが本稿を書こうと思ったきっかけです。
財務の「キホンのキ」ともいえる部分ですので
是非一読してみて下さい。
なぜ「現金は王様」なのか
「黒字のはずなのに、月末がいつも苦しい」
「事業も順調に成長している」
なのに、月末が近づくと現金がいつも心許ない。
この矛盾は、黒字倒産の入り口です。
「会社は利益不足では倒れず、現金不足で倒れる」
まずは、この現実をしっかりと腹落ちさせましょう。
この記事では、なぜ「Cash is King(現金が王様)」なのか、
そして、現金を基準とした意思決定がなぜ大切なのかを、
具体的な実践方法と共にお伝えします。
これは、財務の専門家でなくとも、すべての経営者、そして次代を担うリーダーが必ず身につけるべき経営の羅針盤です。
利益は「意見」 キャッシュは「事実」
P/Lの利益には売掛金や在庫など、まだ現金化されていない要素が混ざります。
解釈で揺れる「意見」に近い数値です。
一方、B/Sの現金・預金残高は今この瞬間(決算日)に使える資金のことです。
誰が見ても変わらない「事実」であり、企業の生死を握ります。
現金が「王様」である3つの理由
1.支払いは現金でしかできない
給与・家賃・仕入・税・返済等。支払日に残高が尽きたらゲームオーバー
2.現金は選択肢と時間を買う
想定外や好機に、撤退/延命/再投資を選べるのは手元資金がある会社だけ
3.成長は先払い
売上増は在庫・売掛・買掛を膨らませ、黒字でも資金は痩せる。
伸びる会社ほど現金管理が生命線
決算書が雄弁に語る「現金こそが最優先」という真実
多くの経営者は、決算書を受け取ると真っ先に損益計算書(P/L)を見て、
「今期は儲かったか、損したか」に一喜一憂しがちです。
しかし、決算書の正式な並び順は、必ず貸借対照表(B/S)が先で、その次に損益計算書(P/L)です。
そして、そのB/Sの一番上に記載されている勘定科目(トップライン)こそが、「現金及び預金」です。
これは偶然ではありません。
決算書は、「経営者よ、何よりも先に会社の現金の状態を確認しなさい」という、
財務や経営者としての原則に基づいた強力なメッセージを発しているのです。
財務分析とは、小難しい経営指標(〇〇比率など)をこねくり回すことではありません。
まず自社の現金を、以下の3つの視点で徹底的に分析することからはじめましょう
ストック:確保すべき現金残高を維持できているか
増減:過去1年~3年間の残高推移
予測:半年後・1年後の見込み残高
経営判断のすべてを「最低現金基準金額」から逆算する
まず自社の最低現金基準金額(目安:固定費の6か月分 月商の3か月分など)を決める
以降の意思決定はこの物差し一本です
借入は悪か? 現金残高維持のための借入は「善」 「借りるか否か」ではなく、「必要現金を守れるか否か」が判断基準
節税は? 現金を痩せさせる(基準金額を割り込む)節税は本末転倒
投資は? 投資後も基準金額を割らないかで判断。割るなら借入をする
在庫は? 在庫増により現金が基準額を割るなら減らす。維持できるなら必要分は持つ
明日からできる現金管理 4ステップ
3か月先までの資金繰り表を作り毎週更新(ズレ=改善点)
最低現金ライン(黄ライン/赤ライン)を設定し、到達前に手を打つ
回収前倒し・支払後倒しを標準化(着手金/中間金・口座振替・サイト交渉)
週15分の資金会議:入出金差分→危険ポイント→誰が/いつまでに/何をの3点だけ決める
まとめ:未来の自由は、今日の現金残高から生まれる
利益は過去の採点、キャッシュは未来の自由
この言葉を、ぜひあなたの経営の第一の哲学としませんか?
すべての意思決定を「その決断は、我々が守るべき現金を増やすのか、減らすのか?」
という問いに立ち返って行う。
これが、不確実性の高い時代を生き抜き、いかなる環境変化にも揺るがない、
強くしなやかな会社を創り上げるための最短距離です。
「Cash is King」を誰かの名言として知っているだけでは意味がありませんし、
本当に自社で現金を「王様」として扱えているかどうかを見直してみましょう。
さあ、今日からまずは、自社の預金残高を改めて確認し、
4週間先までの入出金予定を書き出すことから始めてみませんか。
その小さな一歩が、あなたの会社の未来を大きく変えるのです。